研究課題/領域番号 |
20K00197
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
坂上 桂子 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90386566)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ニューヨーク / 印象派 / 都市 |
研究実績の概要 |
本研究は印象派からはじまった近代都市の表象が、アメリカの画家たちにいかに引き継がれ展開していったかを総合的に考察することにある。本年度は、まずは各関連資料の収集と分類、検討を行い、研究課題としてあげた最初の項目を実施した。すなわち「フランス美術との関連性からの検討」である。彼らがニューヨークの主題を扱うようになった経緯、とりわけフランス美術との接点を見出し、フランス美術の作例から何を吸収し、何を展開させたのかを分析していくことに注力をした。 なかでも手がかりとして、アメリカ印象派の代表的画家として知られるフレデリック・チャイルド・ハッサム(Frederick Childe Hassam (1859-1935)の作品についての分析を行った。ハッサムは19世紀末から20世紀初頭、もっとも多く都市風景を描いた画家の1人である。作品を精査し分析をしていくと、《春のユニオン・スクエア》(1896)、《冬のユニオン・スクエア》(1889-90)《春のワシントンアーチ》(1890-93)、《フィフス・アヴェニュー》(1919)等は、ニューヨークの代表的景観を次々と描き出したものであるが、これらにおいて、印象派から学んだ要素がかなり明確に色濃く反映されている一方で、独自の視点も打ちだされている点も少なくないことがわかる。タイトルにも反映されているように、季節の表象や外光の表現、構図、タッチには印象派の影響がとりわけ著しいと考えられるが、それらはたんにモネやルノワール、ピサロらが描いたパリの情景をニューヨークに移して描いたというわけでは決してない。そこではハッサムの考えるニューヨークという都市像が、つまりニューヨークの特色や特異性がたいへん強く意識され描写されているのである。これらはハッサムだけでなく、ニューヨークを描いた同時期の画家たちの試みにも同様に見出されると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究について当初立てた計画のうち、前半の柱は以下にあった。 ①フランス美術との関連性から検討する。すなわち彼らがニューヨークの主題を扱うようになった経緯、とりわけフランス美術との接点を見出し、フランス美術の作例から何を吸収し、何を展開させたのかをていねいに分析していくこととする。 ②次にニューヨークをテーマとした際の主題内容について検討する。すなわちニューヨークをとりあげた作品を、「通り」、「街並み」、「建物」、「公園」、「市場」、「乗り物」といった、描かれたカテゴリー別に分類し、都市の情景や人びとの暮らしについて、何が浮き彫りにされ、とりあげられているのかを明らかにする。 これらについて、現在まで主としてハッサムを中心に取り上げて進めてきた。そのほかの画家としては、ウィリアム・グラッケンズ(William James Glackens、1870- 1938)についても同時に対象とし調査を進めることで、彼等が印象派の影響下にどのようにニューヨークを意識し描いていったかを少しずつ検討してはじめたところである。 また以上のほかには、同時代のニューヨーク表象に関わる資料の収集・検討を行いつつある。こうした作業のなかで、モーリス・プレンダーガスト(Maurice Prendergast 1858 -1924)は、興味深い作例を多く残していることがわかってきた。そのほかには、第一世代から展開して、新しい都市の表象を目指した画家として、レオン・クロール(Leon Kroll 1884-1974)、マックス・ウェーバー(Max Weber 1881-1961)といった画家たちの資料についても少しずつ目を通すことができてきた状況にある。一方で、これらの画家たちの作品が主としてアメリカの美術館に所蔵されるため、コロナ禍にあって、実見はできていないのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はコロナ禍にあってアメリカでの美術館調査については昨年度同様、おそらく実現が難しいように思われる。したがって引き続き日本において可能な資料収集と分析・研究を中心に行う予定である。研究内容としては、これまで比較的入手ができている個人の画家に焦点を当て、作家ごとに作品分析を軸においた考察をする。一人一人の画家の活動と作品内容を明確にしていくことで、本研究が最終的に目指す問題、つまり「フランス美術からの吸収と独自の展開」や「ニューヨークの都市表象」に託された課題が総合的に検討できるものと考える。具体的には以下の通り進めていく計画である。 ①対象としている画家のうち、資料の収集と分析の進んでいるハッサムについてはすでに作品研究を行ってきているため、それらの調査結果をまとめ、今年度中に順次文章化し、論文としてまとめる。次に優先されるのはグラッケンズである。集まっている資料を中心に作品分析をさらに進めることで、今年度中にある程度の文章化を試みる。 ②プレンダーガストについては、ハッサムやグラッケンズに次いでもっともニューヨークを描いている画家として注目される画家と考えている。そのため今年度の調査対象として優先して資料収集および分析を進める。 ③クロール、ウェーバーについてはいまだ事前調査が足りないため、引き続き資料収集など情報の取得につとめる。さらにジョン・フレンチ・スローン John French Sloan (1871-1951)、ウィラード・メトカーフ(Willard Leroy Metcalf 1858-1925)、ジョージ・ベローズ(George Bellows 1882-1925)等関連の画家についても可能なかぎり注目し資料収集や分析を心がける。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初アメリカにおける美術館調査を計画していが、コロナ禍により渡米出張調査が不可能となったために生じた。これについては資料購入費および人件費として使用する予定である。
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