今年度は最終年度となり、以下の通り研究活動を行った。1,研究代表者は、パリおよびニューヨークに関わる都市表象について研究成果をまとめた論考を執筆した。パリについては印象派の中心的画家たちであるモネ、ルノワール、ピサロ、カイユボットから新印象派のスーラやリュスらを取りあげ、彼らが捉えた都市とは何か、その特徴を同時代の都市整備と都市環境、さらには新しい社会と生活における価値観といった観点から考察し、まとめた。またニューヨークについては、20世紀初期のアメリカを代表する画家として、ハッサム、スローン、グラッケンズの3人に焦点を当て、それぞれその特質を見出すことで、20世紀初期のアメリカ人画家たちが、パリの都市表象からいかに学び、そこからニューヨークという新たな都市の表象へと展開したかを明らかにした。2、研究協力者と研究会を行い、各自が担当する課題について、発表および互いに質疑応答することで検討を重ねた。研究協力者とその研究課題は以下の通りである(カッコ内は研究課題)。吉村真(ピエール・ボナール)、森万由子(モーリス・ドニ)、由良茉委(マリー・ローランサン)、玉井貴子(ジョージア・オキーフ)、誉田あゆみ(岡田謙三)、桝田倫広(河原温)。3、以上に示した研究代表者と協力者との研究成果を書籍として刊行した(『近代都市と絵画ーパリからニューヨークへ』(水声社、2024年2月)。研究協力者が加わることで、幅広い視野が得られたのは大きな成果といえる。これにより、都市表象の問題を、都市での生活、アーティスト自身の都市体験なども含め、さらに深く掘り下げて検討することができた。またパリとニューヨークの具体的都市表象に関する検討に加え、都市での交友関係や、社会的背景と芸術創造との関わりなどをも考察できたのはとくに意義深かった。
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