研究課題/領域番号 |
20K00200
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
豊山 亜希 近畿大学, 国際学部, 准教授 (40511671)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | インド / スリランカ / 日本 / マジョリカタイル / 陶磁器人形 |
研究実績の概要 |
今年度は、20世紀前半の植民地インドとセイロンにおいて建築装飾材として高い需要のあった日本製陶磁器の開発過程について、日本の関連業界団体に残る史料と、在日インド人商人の活動を辿ることのできる商業者名鑑を用いて実態解明を進めた。特に、愛知県名古屋市周辺と兵庫県淡路島を拠点とする日本のタイルメーカーに意匠面から助言を与えていたとされる阪神地域のインド人商人の活動については、タイル以前に日本で活発に生産されたアジア市場向け軽工業品(マッチラベル、石鹸パッケージ、陶磁器人形など)からの連関性があった可能性を以前から推測していた。そこで、タイルと同じ陶磁器産業において輸出品の先駆けとなった陶磁器人形の意匠開発経緯を愛知県内の図書館における史料調査から明らかにし、さらにこれに関与したインド人商人がタイルの意匠開発にも名を連ねていたことを解明した。研究成果は、タイル研究を専門とするイギリス発行の国際学術雑誌Journal of the Tiles and Architectural Ceramics Societyにおいて論文として掲載された。このほか、2022年1月~3月にかけて福岡アジア美術館(福岡市)にて開催された展覧会「ヒンドゥーの神々の物語」の展示においても成果の一端を紹介する機会を得て、関連学会だけでなく一般社会にも研究を還元することができた。また、植民地インドとセイロンにおける日本製タイルの需要実態の比較検討についても、これまで実施してきた現地調査から得られた資料をもとに分析を進めた。今年度はまず、インドに焦点を当て、イギリス製品ボイコットと連動した日本製タイルの消費がインド洋海域のネットワークへと広がった結果、本国インドに対する遠隔地ナショナリズムが醸成されたことを明らかにし、分析結果の一端を書籍刊行物において分担執筆した論考で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の初年度(2020年度)と2年度目(2021年度)は、当初計画に含めていた外国調査を実施できなかったため、採択前にインド、スリランカ、シンガポールなどで収集してきた資料を活用し、商家建築と寺院建築の装飾形式について分析を進めた。ただし、本研究課題において現地で新たに調査予定であった建造物を含めた総合的研究を進める段階には至っていないのが現状である。一方、調査対象として研究計画に含めている日本製の建築装飾材に関しては、国会図書館、愛知県図書館、福岡アジア美術館などの国内機関において文献と実物史料の両面から分析を進め、大いに進展があった。以上の点を総括し、本研究課題の進捗状況は当初計画とは異なった展開を示してはいるものの、一定の研究成果を挙げていることから、「やや遅れている」と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度開始段階で、本研究課題の調査地域として申請段階の研究計画に含めているインド、スリランカ、イギリスはいずれも渡航制限が解除されていることから、2022年度はその全てまたは一部において建造物の実地調査と文献調査の実施を計画している。それに加えて、現段階までの研究で明らかとなった、インド系移民のネットワークを介した建築装飾の超域的広がりについても、インドの植民地経験とアイデンティティ表象の関連性を明らかにするうえでは重要な課題であると考えられることから、その検証を行なううえで好適と考えられるシンガポールについても、現段階では渡航制限が解除されていることから、調査対象地域に加えて今年度に実地調査を行ないたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の採択初年度から昨年度までの2年度間にわたり、新型コロナウイルスの世界的流行により、支出計画の主軸をなす外国調査旅費として予算を使用することができていないため、次年度使用額が生じている。2022年度は、調査地域の多くで渡航制限が解除の方向へ向かっていることから、外国調査旅費を含む支出計画を立てて研究を遂行していく予定である。
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