研究課題/領域番号 |
20K00200
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
豊山 亜希 近畿大学, 国際学部, 准教授 (40511671)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | インド / スリランカ / 植民地美術 / 壁画 / タイル / 民族主義 |
研究実績の概要 |
3年度目にあたる2022年度は、新型コロナウイルス対応策が緩和されてきたことを受けて、2022年8-9月に2回、2023年3月に1回の合計3回にわたり外国調査を実施することができた。調査先は、シンガポール(2022年8月)、ドイツ・オランダ・イギリス(2022年8-9月)、インド(2023年3月)である。 まずシンガポールでは、シンガポール国立博物館、アジア文明美術館、シンガポール国立美術館を訪問し、研究対象である植民地インドとスリランカをはじめとする南アジアの植民地美術が、これらの地域出身者の主な移住先であるシンガポールにおいていかに展開されたのか、絵画作品を中心に調査を行った。 ドイツ・オランダ・イギリスにおいては、植民地期のインドとスリランカにおける建築装飾として用いられた陶磁製建材であるタイルの技術的・様式的変化を明らかにするため、ドイツのドレスデン、オランダのオッテルロー、イギリスのテルフォードにおいて、陶磁器およびタイルに関する研究機関をそれぞれ訪問し、資料熟覧調査を行った。 インドにおいては、シンガポールとヨーロッパの調査で収集したデータを踏まえつつ、イギリスによる植民地支配以外に、インドとスリランカにおける西洋美術の摂取と再編に影響を与えた要素を明らかにするため、ポルトガル統治の歴史を有するアラビア海沿岸部のゴアとコチを訪問し、植民地期の建築を巡見し、その装飾形式を調査した。 これらの調査から、20世紀前半のインドとスリランカの美術様式は、当時の宗主国イギリスからの影響のみならず、イギリス統治以前からの西洋との接触による影響も少なからずあることが明らかとなった。本課題以前のスリランカ調査でオランダ製タイルが寺院装飾に用いられていたのを確認していたが、インドの建築装飾においてもそうした要素が少なからず確認できたため、さらに調査を進める必要があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目と2年目は新型コロナウイルスの影響が深刻で外国調査の目処が立たなかった。しかし本課題の研究対象であるインドとスリランカの宗教建築で使用されてきた装飾タイルが日本製である点に着目し、日本国内において南アジアの民族主義の醸成に近代日本の陶磁器産業がどのように関わっていたのかを集中的に調査し、成果公表を行うことができた。具体的には、壁画にとどまらずより広義の空間装飾という観点から、植民地インドとスリランカにおけるタイルの具体的な使用法の比較を行ったことで、研究目標の達成に結果的には近づいたと考える。 さらに2022年度は、本格的な外国調査が再開できたことにより、過去2年間実施してきた空間装飾としての陶磁器産業の歴史的経緯と、彩色壁画への様式的影響があったと考えられる近代絵画およびそれをもとにした印刷メディアに焦点を当てたうえで、所蔵機関との連絡や渡航準備も計画的に進めて充実した調査成果を得ることができた。以上の点から、本課題の研究計画はおおむね順調に進展していると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2023年は本課題の最終年度となるため、成果公表に注力しつつ、当初の研究計画に含めていた外国調査で未実施のものについて可能な限り実施したい。具体的には、スリランカにおける寺院建築調査の実施を検討したいと考えているが、深刻な経済問題に伴う政情不安が続いている状況であるため、今後の情勢を踏まえて渡航の可能性を検討する。スリランカ調査が実施困難である場合には、インド南部のタミル・ナードゥ州とケーララ州を中心に寺院建築および商家建築の巡見調査を実施し、分析可能なデータ収集の拡充に努める。また、成果公表の場として、2023年9月にインドのアフメダーバードで開催される国際学会 Indian Business and Economic History Conferenceでの発表が決定している。日本製タイルによる空間装飾が、民族主義の興隆期にあったインドにおいてどのように発達したのかを、過去③年間の調査成果をもとに発表する予定であり、発表後には論文にまとめることを計画している。そのうえで、インドまたはスリランカにおいて植民地期の商家建築および寺院建築の実地調査を行い、本課題全体の成果として論文または単著での公表を進めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度・21年度に外国調査目的で計上していた旅費が使用できなかったため、2022年度の支出額を差し引いても残高が生じる状況となっている。最終年度にあたる2023年に、外国調査および国際学会での成果公表を目的とした海外渡航を予定していることと、調査用撮影機材の購入を検討しているため、昨年度末までの残高は問題なく今年度で全額執行可能であると考えている。
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