最終年度にあたる令和5年度は、成果発信と本課題を基課題とする科研費(国際共同研究強化A)との連携を主軸として研究を進めた。成果発信として、インドのアフメダーバードにあるインド経営大学院大学にて2023年9月に開催された、第3回インド経営史・経済史国際会議で口頭発表を実施した。発表内容は、植民地インドにおける民族運動と建築装飾の様式的変遷の関連に焦点を当てたもので、特に本課題の遂行において、新型コロナウイルスの流行時に日本国内で文献調査を集中的に実施した成果として、インドの民族運動と連関した建築装飾の実践に日本製の装飾タイルが重要な役割を果たしたことを指摘し、参加者と活発な意見交換を行うことができた。 植民地インドにおける建築装飾の様式的変遷については、国際共同研究強化Aの研究課題において、東アフリカからインド亜大陸、さらに東アジアまでを含む環インド洋海域に範囲を拡大し、この地域で横断的に活動したインド系移民の建築を対象とした比較分析を計画している。そのため、インド系移民の移住先のなかでもこれまで実地調査を行っていなかったスワヒリ地域(東アフリカ沿岸部)のうち、インド系商人が大きな役割を果たした旧イギリス領の港市のひとつである、タンザニアのザンジバル島において、10月下旬から11月上旬にかけて約1週間にわたり調査を実施した。ザンジバルの旧市街には、王家の墓所やインド系のイスラーム墓地に日本製タイルが残されていることが先行研究によって指摘されているが、不明点も多いことから、調査では現状確認と写真撮影を行った。国際共同研究強化Aを展開させるうえでは、本課題において明らかにしてきた日本製タイルの市場の広がりを踏まえて、具体的な受容実態を古写真を始めとする資料調査によって明らかにする必要性を確認することができた。
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