研究課題/領域番号 |
20K00208
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菊池 敏正 東京大学, 総合研究博物館, 特任助教 (10516769)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 保存修復 / 文化財 / 学術標本 / 模型 / 3D / 復元 / 芸術 / 数理模型 |
研究実績の概要 |
大学博物館が収蔵、展示公開している学術標本は様々ある。新規収蔵品の標本化、データベース化が着実に進んでいる植物等の自然史標本と比較すると、文化史系標本は素材や形状が様々である。そのため、保存管理に画一的な方法を取ることが難しく、複雑な状況であると言える。文化史系学術標本群の中において、石膏製数理模型は素材が統一されており、本研究を遂行することで模型の復元も可能になる標本である。また、国際的な調査を進めていくことで、大きな成果が期待できるものでもある。研究開始でもある令和2年度は、コロナウイルスの影響を受け、大幅に計画の変更を行う必要があった。特に、計画していたハーバード大学が所蔵する数理模型の調査は実施することができず、本年度に計画していたフランスギメ東洋美術館での数理模型をモチーフとする展覧会が延期となった。この様な状況ではあるが、東京大学所蔵の数理模型について再度調査を進め、3D計測を実施した。これまでの研究活動において使用してきた数理模型のシリコン型の整理、補修を遂行し、今後の研究活動にも備えた。復元制作に必要な準備を進めつつ、さらには1年延期となったフランスギメ東洋美術館での展示の準備についても順調に進めることができた。国内での研究活動の一環として、彫刻文化財の模刻制作技術に着目した展覧会を企画し、準備を進めた。展示会場はインターメディアテク3Fを予定している。彫刻文化財の模刻制作には現代の先端的な技術と、伝統的な技法を併用して使用するため、本研究の復元制作に非常に近いものであり、展覧会を通じて保存の重要性を問う企画となり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、コロナウイルスの影響により海外学術調査が実施できていないため、海外学術調査の面では、当初の計画と比較すると部分的には遅れている。今後は、この様な状況を想定した計画が必要になる。このような状況の中、令和2年度は国内での研究活動に重点を置いて進めた。主に、現在所蔵している数理模型のさらなる調査に加え、復元制作に必要なシリコン型の補修を行い、別素材での復元制作を試験的に実施した。来年度以降も海外学術調査が実施できない可能性も予測し、3Dデータのみによる復元が可能か検討を進めた。3Dデータのみによる再現と現状の模型との誤差が、制作技術の追求に最も大きな情報となり得るため、可能な限り現状の模型の形状を参照しつつ、復元のためのデータを収集した。 また、国内での研究活動の一環として、復元、複製の技術に着目した展覧会「仏像工学~追体験と新解釈」を企画し、インターメディアテクでの公開を目的として準備を進めた。本企画は、模刻を通じて得られた技法構造に関わる知見を紹介するものでもあり、当時の技法を再現することにより、自然科学分析からは判断しづらい詳細な制作工程や構造を検証するものでもある。博物館における標本の保存方法に対して新たな知見を見出していくように努めた。
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今後の研究の推進方策 |
コロナウイルスの影響が今後の研究に影響を与える可能性は現在も十分に予測できる状況ではあるが、初年度に計画していたアメリカ、フランスでの調査を実施できる様準備を進める。また、渡航が困難な状況の場合は3Dデータ計測を各研究機関に依頼し、データのみを収集し、国内での復元研究に役立てることも計画している。そのため、簡易的な3Dの計測方法を複数回、試験的に実施し最も正確なデータが得られる方法を検討して行く予定である。コンピューター上にて作成した数理モデルと現存する数理模型との形状の違いについても実践的な制作を双方から進めることで、復元制作の準備を進める。令和3年度に延期されたフランスギメ美術館での展示には、ポアンカレ数学研究所、ポンピドゥーセンターの協力を得られる予定であり、20世紀初頭の数理模型について資料を収集し、今後の研究活動に役立てる予定である。復元制作は、順次進める計画であり、データ収集と並行して令和3年度には複数対完成させる予定である。また、復元した数理模型は、コロナウイルスの状況を見つつ、一般公開する機会を持てるよう準備を進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費での支出が、今年度は無いため次年度使用額が生じてしまった。来年度は使用する計画がある。
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