研究課題/領域番号 |
20K00218
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研究機関 | 東日本国際大学 |
研究代表者 |
田中 みわ子 東日本国際大学, 健康福祉学部, 教授 (10581093)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 障害学 / ディスアビリティ・アート / 身体 / 美学 / マテリアリティ |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に引き続き文献調査とこれまでの実地調査から得られたデータの分析作業を主として研究を進めることとなった。 身体観の変容については、アメリカのディスアビリティ・アートの実践を事例とした論文が査読を経て刊行された。本論文は、国立民族学博物館若手共同研究(代表:吉田ゆか子)の成果として『国立民族学博物館研究報告』46(2)の特集「上演を紡ぐ人とモノ:マテリアリティの人類学と上演芸術の研究の交差点」に採録されたものであり、車椅子というモノに着目した論考である。本論文では、車椅子というモノの物質性(マテリアリティ)が、快や不快などさまざまな感覚や情動を通じて個々人の身体観と密接に結びつき、車椅子と身体との間には個別的な関係性がみられること、また、その個別的で親密な関係性は、車椅子がもつ文化的意味や行為の可能性を切り拓いていく契機となりうるものであり、車椅子ダンスにおいて新たな美学が生起していることを論じた。 本論文の事例は、あくまでもアメリカのディスアビリティ・アートの文脈にもとづいたものである。障害の「美学」がもたらす身体観の変容に、どのような文化的差異がみられるのか、また、どのように文化的差異を越境していくのかという本研究の問いについては、今後考察を展開していく必要がある。障害学において、障害の「美学」はあくまで芸術表現において見出されるものであるが、車椅子ダンスの分析を踏まえれば、その「美学」が日常生活における車椅子と身体との関係性の中なら生み出されていたことが理解され、その社会的効果もまた広範に及んでいると考えられる。そうした「美学」の拡がりは、欧米社会のみならず日本においてもみられるようになってきているとの見解のもと、実態を解き明かしていくことも今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
未だ海外および国内での実地調査が実現できていないことが主な理由である。障害者アートの実践を取り巻く最新の動向についてはウェブサイト等での情報収集となり、予期していたよりも大幅に調査に時間を要したことも進捗が遅れた理由である。過去に得られた調査データをもとに、可能な範囲で分析や考察を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
実地調査の実現の有無に関わらず、一定の成果が出せるように研究計画を一部変更する。ディスアビリティ・アートおよびアールディフェランシエの2つの潮流にみられる障害の「美学」とその文化的差異を明らかにするべく、これまでに得られた調査データの分析から考察を行い、論文を執筆する。 研究を遂行する上での課題は、国内外での障害者アートの実践団体・実践者をはじめとする調査関係者との交流や意見交換の機会がコロナ禍において制限されていることであり、オンライン上では実施が難しいことが新たな課題となっている。状況を鑑みながら柔軟にスケジュールを調整するとともに、事例の分析および解明作業を中心に研究を進め、文化横断的な視点から身体観の文化的差異の抽出を試みていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外調査費用および調査に関係する人件費として計上していたが、新型コロナウィルス感染症の影響により海外調査を断念したため次年度使用額が生じた。 使用計画として、①勤務校内での研究室移動に伴い、急遽研究環境を整備する必要が生じたことから間接経費および直接経費(物品費)で机、パソコン、プリンター等を購入する。②調査費用および人件費については、状況を鑑みながら必要に応じて使用するものとし、調査が難しい場合にはできる限り必要な資料の購入に充てることとする。
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