研究課題/領域番号 |
20K00225
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研究機関 | 熊本高等専門学校 |
研究代表者 |
西村 勇也 熊本高等専門学校, 電子情報システム工学系CIグループ, 准教授 (60585199)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 音楽音響 / 楽器音響 / バイオリン / 指向特性 / 魂柱 / 駒 / X線CTスキャン / 職人の技術継承 |
研究実績の概要 |
本研究は、音響工学的観点からバイオリン職人の楽器調整の技術継承を支援することを目的とし、多岐に渡るバイオリン調整の中から評価が一貫して揺るがない楽器の指向特性をターゲットとしてバイオリン職人との連携により、音響工学的観点から楽器調整の定量的な指針を提供し、バイオリン職人の技術継承支援を目的としている。 研究の核心である、 「駒と魂柱のみの調整で如何にして鋭い指向特性を得ることができるか」について、以下(1)-(4)の研究手順により取組む。 (1)バイオリンの筐体・駒・魂柱のX線CT測定により寸法・位置関係を明らかにする。(2)無響室でのバイオリンの実演奏音収録により指向特性を測定する。(3)バイオリン職人による駒・魂柱の調整を実施する。(4)調整後のバイオリンに対し研究手順(1)-(2)を再度行い駒・魂柱の移動度と指向特性の変化を解析する。 魂柱調整こそが職人の腕の見せ所であり、経験や勘が必要である。調整は駒と魂柱の位置を最適化することである。この位置関係は音色をはじめ音量や指向特性に大きく関係するが、奏者によって音色や音量の嗜好は異なるため、音色の調整は奏者の主観によって調整されることが多い。しかしながら指向特性についてはL.Cremerの研究で述べられている通り一貫して鋭い楽器が良いとされる。 上記研究手順を複数回繰り返し、調整による位置関係と指向特性の相関指標を作成する。具体的には魂柱調整位置を基準となる魂柱位置からA点(12時方向)、B点(3時方向)、C点(6時方向)のように位置を変更し、その際の指向特性がどのように変化するのかを解明することにより、調整位置と指向特性の指標を作成する。魂柱は表板と裏板に指向特性については本校所有の無響室を使用し正二十面体の均等密度配置となる42点にマイクロフォンを設置し、指向特性の測定を実施し、取得した音圧レベルを三次元可視化する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ、上述の研究手順(1)-(4)において1台のバイオリンを用いて魂柱調整を実施し、職人の主観による最適位置を決定した。最適位置を基準点として、表板のみの魂柱移動を4回(研究手順を5サイクル)、裏板のみの魂柱移動を4回実施しそれぞれの移動度をCTスキャンにて計測、魂柱移動による指向特性の変化を測定している。現状判明している最適位置は基準点に対して表板と接触する魂柱位置はバイオリン筐体上方向(駒寄り)、裏板と接触する位置は筐体下方向(エンドピン側)に0.2mm移動した際に最も指向特性が先鋭となることが明らかになっている。 指向特性の先鋭については新たな事象が確認でき、これまでの研究成果としてバイオリンが奏でる音の指向性はスクロール方向及び表板の法線方向が支配的であったが、本研究により魂柱を移動することによる上述箇所の変化は少なく、その代わり右前方15°方向(バイオリンを水平に配置しスクロールを上方向とした場合、1弦方向に仰角15°)への指向特性変化が顕著に表れた。この方向への先鋭さを評価パラメータとして上記魂柱移動箇所による指向特性を解析したところ最適位置での魂柱位置が最も先鋭であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
これまで1台のバイオリンを用いて複数回魂柱の移動を実施した結果、1弦方向仰角15°の指向特性が最も先鋭であった箇所を魂柱の最適位置と定義した。 これはあくまでも1934年製モダンバイオリンの固有値であると考えており、今後は異なる流派・系統のバイオリンを使用し同様の手順にて研究を推進する予定である。これは流派により板の形状や厚み、f字孔の配置や開口面積が異なるためである。一般的にドイツ製ジャーマンバイオリンはフュッセン(Fussen)から発祥し各地で盛んに製作されたが、オーストリアのチロル地方にあるアプサム(Absam)の町で17世紀にヤコプ・シュタイナー(Jacob Stainer)が現代のジャーマンバイオリンの型となる表板のハイアーチ形状を決定付けた。 イタリアバイオリンにおいては17世紀初頭に二コラアマティ(Nicolo Amati)に始まりAntonio Stradivari派、Guarneri del Gesu派、Carlo Bergonzi派などさまざまであるが、表板はローアーチ形状が主流であり、ジャーマンバイオリンと比較すると板のふくらみ(アーチ)が緩やかであり、また板厚が薄いのが特徴である。 令和3年度はジャーマンバイオリンにおいてバイオリン筐体内部のバスバー(力木)の変更など調整範囲を広げて研究を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた音響学会春季研究発表会及びソウルにて開催予定であったInter-noise2020などの国内・国際旅費を使用しなかった。またそれに伴う投稿料及び参加費が未使用である。 物品費に関しては測定に使用するマイクロフォンを当初DPA社製コンデンサマイク4060FMを使用予定であったが廃盤となったため選定を見直しており、後継機では配分された予算での購入ができないためメーカー選定を始めたところである。 令和3年度内には購入予定である。
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