本研究は、音響工学的観点からバイオリン職人の楽器調整の技術継承を支援することを目的とし、楽器の放射音である「指向特性」をターゲットとしてバイオリン職人・奏者との連携により、音響工学的観点から楽器調整の定量的な指針を提供し、バイオリン職人の技術継承支援を目的としている。 研究の核心である、「駒と魂柱のみの調整で如何にして鋭い指向特性を得ることができるか」について、以下(1)-(5)の研究手順により取り組んだ。 (1)バイオリンの筐体・駒・魂柱のX線CT測定により寸法・位置関係を明らかにする。(2)無響室でのバイオリンの実演奏音収録により指向特性を測定する。(3)CT測定により得られたバイオリン筐体内の寸法より共振周波数の理論計算を実施し、魂柱位置を加振点とした筐体内の音波伝搬及び共振周波数の発生メカニズムを得る。(4)バイオリン職人による駒・魂柱の調整を実施する。(5)調整後のバイオリンに対し研究手順(1)-(3)を再度行い駒・魂柱の移動度と指向特性の変化を解析する。 上記研究手順を複数回繰り返し、調整による位置関係と指向特性の相関指標を作成した。具体的には魂柱調整位置を基準となる魂柱位置から複数ヶ所位置を変更し、その際の指向特性がどのように変化したのかを解明することにより、調整位置と指向特性の指標を作成する。指向特性の測定については本校所有の無響室を使用し正二十面体の均等密度配置となる42点にマイクロフォンを設置して指向特性の測定を実施し、取得した音圧レベルを三次元的に可視化した。 研究期間を通じて2挺の流派の異なるバイオリンを用いた相関指標の作成、1挺のモダンバイオリンをバロックバイオリンへと修正した際の指向特性の比較を実施した。
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