研究課題/領域番号 |
20K00231
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
山名 仁 和歌山大学, 教育学部, 教授 (00314550)
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研究分担者 |
筒井 はる香 同志社女子大学, 学芸学部, 准教授 (20755342)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フォルテピアノ / ペダリング / ショパン / アーティキュレーション / フレージング / アクセント記号 |
研究実績の概要 |
初年度は残念ながらコロナ禍の大きな影響を受け、当初予定していた日本国内に所蔵されているプレイエルの調査は叶わなかった。従って計画の優先順位を変え、ワルシャワ時代のショパンの作品に絞り、研究者が所蔵するローゼンベルガー製ウィーン式フォルテピアノ(1820年頃)による演奏研究をおこなった。ワルシャワ時代のショパンが所持していたブフホルツ製フォルテピアノについては、ウィーン式であったのか、イギリス式であったのか判明していない。しかしウィーンの演奏旅行においてはグラーフを称賛していることから、たとえ彼の所持していたブフホルツ製フォルテピアノがイギリス式であったとしても、パリ到着以前のショパンにとってグラーフは理想の楽器であった。従ってワルシャワ時代のショパンの作品をウィーン式フォルテピアノによって演奏研究することは、特にウィーン式フォルテピアノにおいてイギリス式ピアノよりも明確となるアーティキュレーションの効果を判断することにおいて意義のあるものであると研究者は考えた。対象作品はワルシャワ時代に出版された作品に限定している。未出版の作品を対象としなかったのは、スラー、スタッカート、ペダルの配置について未確定であると判断したからである。これまでの研究でショパンがペダル記号を記さなかったほとんどの箇所において、10度音程が楽に届く演奏者であればペダルを使用せずとも指だけで音が保持できるように書かれてあることが明らかになった。ただし、11度届かないと保持できない箇所も少数確認することができた。他の箇所については、ペダルによって音が保持されない場合、自然にアーティキュレートされることを前提として書かれてあると現時点で研究者は考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の影響で楽器調査ができなかったが、その分研究対象をワルシャワ時代に出版された作品にしぼり、ウィーン式フォルテピアノによって演奏研究をすることで、ショパンのアーティキュレーションの書法の解明について一定の成果を上げることができた。ショパンがペダル記号を記さなかった箇所については、多くの場合アーティキュレーションを明確にする意図があったと考えられる。これは音の立ち上がりと音の減衰の双方が現代のピアノよりも速いフォルテピアノによって初めて明らかとなる要素といえる。上記のように一定の成果があげられていることから、コロナ禍のこの間においては、この枠組みによる研究を推し進めていくことが有効であり、またパリ移住以降の記譜法の変化を見極める基礎を固めることができると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きコロナ禍の影響で国内外のプレイエルの調査ができない可能性が高いため、上記ワルシャワ時代の作品の研究を継続する。前述のように、ショパンがペダル記号を記さなかった箇所のほとんどが指の保持によって演奏可能であるように書かれている。その理由は明らかで、ショパンがアーティキュレーションによる表現の可能性を重視していたからに他ならない。ショパンの記したアーティキュレーション記号は非常に複雑で、イレギュラーでもある。未だ推測の域を出ないが、ショパンは新しいアーティキュレーション法を模索・開発していた可能性が高い。この特別なアーティキュレーション法を、ウィーン式フォルテピアノにおいてどう表現するのか、ということが大きな課題となってくる。アーティキュレーションは、単に音と音が切り離されていれば表現として成り立つわけではない。音の切り上げ方によって音楽の流れ、表情は変化してしまう。これを安易なペダルの使用でもって耳障りの良い音楽に仕上げるのではなく、ショパンの作品をむしろバロックおよび古典派的に明瞭なアーティキュレーションが求められている音楽として捉え直すことを課題とする。 一方でペダルの踏み方にも改善が求められている。長年シコペーテッド・ペダル法を使っていた研究者は、ショパンが書いたペダル記号とアスタリスクの位置に従って踏むことの不自由さに悩まされている。アスタリスクの位置とペダルの切り上げの速度とタイミングについてはさらなる研究が必要であろう。最終的な目標はシコペーテッド・ペダル法とは一線を画したショパンのペダル法の確立である。研究者は現在このペダル法について暫定的に「アーティキュレーテッド・ペダル法」と名付けている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍において国内外の楽器調査ができなかったため。今後コロナ禍が沈静化したのち、楽器調査を開始する。
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