研究課題/領域番号 |
20K00234
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
安川 智子 北里大学, 一般教育部, 講師 (70535517)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 20世紀フランス / ヴァグネリスム / サン=サーンス / 古楽復興 / フーゴー・リーマン / ヴァンサン・ダンディ / 音楽学 / 20世紀日本 |
研究実績の概要 |
2020年度は新型コロナウィルス流行のため、発表を予定していた国際学会2件が延期となった(2021年度開催予定)。そのため年度ごとの研究計画にこだわらず、できることから進めていった。 2020年11月にオンラインで開催された日本音楽学会全国大会では、共同発表及びシンポジウムとして、合計3つの発表を行った。すべて20世紀初頭、特に1890年代から1920年代の30年間に焦点を当てたもので、フランスと日本、フランスとドイツを比較しつつ3つの別々の方向から調査することで、思わぬ発見や気づきを得ることができた。具体的には、フーゴー・リーマンの『音楽事典』の独語版と仏語の2版(1899年、1913年)の改訂・翻訳過程を、音楽理論用語に注目して比較し、フランスの音楽理論の独自性や、今日までの用語・概念の伝播過程、音楽(学)関係者の20世紀初頭における国際的交流関係の一旦が明らかになった。「100年前のベートーヴェン」と題したシンポジウムの発表では、その人間関係に音楽学者としてのロマン・ロランを絡めることで、フランスから日本への思想の流れとずれを跡付けることができた。さらに、「カミーユ・サン=サーンスとクラルテ概念」と題したシンポジウムで、長年の研究対象であるフランスの古楽復興活動を、1895年~1915年のサン=サーンス周辺の言説に焦点を当てて調査することで、彼の古楽講演(1915)の意義や英米圏への広がり、演奏家と音楽学者間の議論と対立が浮き彫りになった。いずれも20世紀初頭のフランスにおいて、ドイツの影響から急速に音楽学的コミュニティが整備されたことと関わっており、本研究の目的であるフランス音楽文化モデルの解明と理論化に向けて大きな前進となった。現時点でその成果は、2本の論文(うち1本は共著)、1本の研究ノートとして刊行・または脱稿済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では前年度からの継続課題として、箕作秋吉についての共同研究、およびヴァグネリスムとドビュッシスムの概念的生成過程の解明を、学会発表や論文執筆にて成果発表する予定だった。前者に関する国際学会が1年延期になったため、第二年次に予定していた西田紘子氏とのフーゴー・リーマンの音楽事典に関する独仏比較研究を前倒しして進め、一定の成果が得られた。学会発表と論文執筆が完了している。また箕作秋吉の日本和声について、2021年4月にオンラインによる国際学会(Banja Luca)において、共同研究者のWai Ling氏との発表を行い、延期された国際学会へのつなぎとすることができた。ヴァグネリスムに関わる研究については、当初の予定とは異なるが、『ワーグナーシュンポシオン』に関連する論文を寄稿することができた。2021年度に刊行予定である。20世紀前半に時代を狭く絞ることで、フランスと日本の状況を並行して調査し、比較することができている。以上のことから、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初第一年次の研究予定にあった箕作秋吉の和声理論およびその時代における国際的位置づけについて、集中的に共同研究を進めている。延期された国際学会が2021年9月にモスクワで予定されており、オンラインの可能性もあるがここで一定の成果を出すことを目標としている。それに続いて、第二年次の研究予定通り、箕作秋吉と池内友次郎氏との関係など、日本側の資料調査を、日本の研究協力者と共に進める予定である。 これまでに積み重ねてきた、19世紀末から20世紀初頭のフランスにおける音楽文化モデルの生成、およびヴァグネリスムとドビュッシスムにかかわる概念整理については、引き続き執筆による整理と、刊行物としての継続した公表を進めていきたい。またこのテーマにおいては、2021年12月にパリで予定されている「ブルゴー=デュクドレ―」に関する国際会議で発表を行うことが決まっており、こちらの準備にも注力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響で国際学会が2件延期になり、海外渡航・滞在の費用がそのまま残っている。また国内出張もすべてがオンライン開催となっていることから、交通費等が使われないまま持ち越された。 2021年度は延期された国際学会が予定されており、1件はいまだオンラインの可能性はあるが、12月のパリは現地で開催される可能性が高く、こちらの旅費に充てたい。また、現在利用しているパソコンが、オンライン業務による負担が増し、不具合が生じてきているため、予定外ではあるが新調することも検討している。 さらに資料などの現地収集が難しい状況が続いていることから、資料の取り寄せ等に新たに費用を充てたいと考えている。
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