研究課題/領域番号 |
20K00251
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研究機関 | 政策研究大学院大学 |
研究代表者 |
垣内 恵美子 政策研究大学院大学, 政策研究科, 名誉教授 (90263029)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 公立劇場 / 政策評価 / 活動評価 / 社会的インパクト / ロジックモデル |
研究実績の概要 |
本研究は、公立劇場の活動に関し、①ロジックモデル等を援用して整理・総括し、②国際的な流れである社会的利益(social return)の考え方と課題を検証し、③定性的・定量的手法のベストミックスによる社会的インパクト評価の仕組みを提示することを目的とする。そのため、①精度の高い評価事例を他分野での事例や手法も含め整理、総括し、②社会的利益(social return)に関する海外事例も併せて検討し、課題と制約条件を抽出、③我が国の公立劇場で使いやすい包括的、客観的、かつ実現可能な社会的インパクト評価の枠組みを提示することを目指す。 初年度では、文献調査により先行研究を整理、政策評価の流れを俯瞰し、2・3年次では広く精度の高い事例を中心にデータを収集、分析し、文化分野の国内外の評価事例の総括とあわせて、ロジックモデル等を使った評価事例を作成した。コロナ禍のため、ヒアリングや現地調査は限定的な実施にとどまったが、これまでの3年間で3回のウェビナー及び行政との協働による国際会議(対面)を1回開催、さらに海外実践家へのヒアリングを行い、一定程度最新情報を共有することができた。これらを踏まえ、これまでの3年間で学術論文を6本作成、採択された。特に、ロジックモデルの援用を試みた論文は、新規性と今後の発展可能性が高く評価され、TCMにより劇場活動の利用評価を行った論文は、この分野で初めてのもので、先行研究の空白を埋めることができた。また、劇場活動にかかる住民意識調査の結果の重回帰分析は、劇場の役割を明確にし、行政からも評価された。さらに、行政の要請に基づき行ったCVMによる劇場の社会的便益評価は、論文として取りまとめているところである。しかしながら、当初予定していた海外調査は未実施なため、延長期間である令和5年度に集中的に行い、これまで得られた結果と合わせて総括したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、公立劇場に関し、①評価事例をロジックモデルに即して整理・総括し、②国際的な流れとなっている社会的利益(social return)の考え方と課題を検証し、③定性的・定量的手法のベストミックスによる社会的インパクト評価の実現可能な仕組みを提示することを目的とする。そのため、各年次において、文献調査を通じて先行研究を整理するとともに、専門家や実践家等から情報収集を行い、現地調査を実施することを盛り込んでいる。しかしながら、令和2年度から令和4年度までの間、コロナ禍による緊急事態宣言等の発出等により、移動を含め多くの研究活動にも制限があったこと、また、研究対象である劇場では、公演活動中止や延期、コロナ禍への対応等に伴う各種作業のため現場が混乱したことなどから、現地調査や専門家への直接ヒアリングは、ごく一部を除き、実施できなかった。このため、研究の重点を文献調査に切り替えるとともに、これまで実施した調査結果のさらなる分析、深耕とともに、新たにインターネット調査を実施、結果として、これまでの3年間で論文を6本取りまとめ、採択された。また、本研究の意図としては、国際的な流れである社会的インパクトを総合的に勘案しながら、公立劇場の実践可能な評価方法及び仕組みを考察することにあるため、海外との情報共有は不可欠である。令和2年度以降の3年間で、国際シンポジウムをウェビナー形式3回、対面で1回開催、さらに海外研究者とのウェビナーも実施し、一定程度の情報共有はできたと思われるが、当初予定していたものとは異なる。以上を総括すると、コロナ禍の状況に直面しながら機動的かつ柔軟に対応し、一定の成果も出すことができたと思われるが、全体としてはやや遅れていると判断せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、コロナ禍の直撃を受け、当初の研究期間である令和2年度から4年度までの3年間は、想定していたものとは異なる展開となった。特に海外調査が実施できなかったことから、延長期間となる令和5年度には、海外調査も含め、研究計画を予定通り完了させる予定である。 海外調査では、社会的インパクト評価の延長線上に新たに提示された概念である社会的リターン(social return)に着目し、既に実践が進んでいる英国の事例調査、関係者へのヒアリングを行う。あわせて、クラウドファンディングや税制なども活用した資金調達が進んできているフランスをはじめとするヨーロッパ諸国の最新情報についても現地研究者の協力を得てヒアリングを行い、成果評価の仕組み、ベンチマーク、関係者の意識変化等などについて改めて確認したい。これら海外調査については、これまでいくつかの団体や専門家と接触しており、令和5年12月までには実施する方向で準備を進めている。 研究の総括としては、まず、評価手法の流れについては、既に、内閣府の社会的インパクト評価イニシアティブも参照しながら検討した結果を取りまとめつつあり、一部論文として公表したが、本年度は、特に実際の適応にあたっての課題や限界、可能性について、整理、総括するとともに、専門家へのヒアリング、実践家等の協力を得て、ロジックモデルに沿った総合的な評価の仕組みを多角的に検討する。このため、令和5年度中に、国内外第一線の研究者、実践家をウェブでつないで国際シンポジウムを開催することも視野に入れる。 最終的な成果としては、総合的かつ包括的な評価モデルを取りまとめることを想定しているが、成果はまとまり次第、これまで同様、国内外の学会で発表・論文投稿を行うとともに、評価モデルはウェブ上で公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度から令和4年度においては、当初予定していた国内外の専門家・実践家への対面のヒアリング及び現地調査がコロナ禍において困難であり、令和4年度においても、主として文献調査、zoomによるウェビナーを実施するとともに、知見を論文として取りまとめることに注力した。そのため、論文投稿関連等の経費がかかったものの、専門家への謝金等の支出が抑えられた。一方、令和4年度においては、国内外の研究者、実践家を招聘、行政と協働で、この研究期間でははじめてとなる対面形式での国際会議を1回、現地(島根県松江市)で開催できたことから、国内出張費がかかったが、海外調査が引き続き実施できなかったことから、出張費の使用残額が生じた。令和5年度では、これまでオンライン等で接触していた海外の専門家や団体への現地インタビューや実態調査を予定通り進める予定で、現在調整中である。なお、これまで文献調査がかなり進み、事例分析による課題の深堀も進んだことから、海外調査の準備は整ったと感じている。あわせて、これまで十分に実施できなかった国内でのヒアリング、現地調査等も積極的に行い、令和5年度中に、総括となる国際シンポジウムを開催することも視野に入れている。
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