本研究は、公立劇場の活動に関し、①ロジックモデル等を援用して整理・総括し、②国際的な流れである社会的利益(social return)の考え方と課題を検証し、③定性的・定量的手法のベストミックスによる社会的インパクト評価の仕組みを提示することを目的とし、具体的には、①精度の高い評価事例を他分野での事例や手法も含め整理、総括し、②社会的利益(social return)に関する海外事例も併せて検討し、課題と制約条件を抽出、③我が国の公立劇場で使いやすい包括的、客観的、かつ実現可能な社会的インパクト評価の枠組みを提示することを目指して実施したものである。 初年度では、文献調査により先行研究を整理、政策評価の流れを俯瞰し、2・3年次では広く精度の高い事例を中心にデータを収集、分析し、文化分野の国内外の評価事例の総括とあわせて、ロジックモデル等を使った評価事例を作成した。コロナ禍のため、実施できなかった海外調査は最終年の令和5年度に実施した。 結果、3回のウェビナー及び行政との協働による国際会議(対面)を1回開催、海外実践家へのヒアリングを行い、フランスおよび英国への海外調査により、最新情報を共有することができた。これらを踏まえ、学術論文を7本作成、採択、公表された。ロジックモデルの援用を試みた論文は、新規性と今後の発展可能性が高く評価され、この分野で初めて援用したTCMによる劇場活動の利用評価論文は、先行研究の空白を埋めることができた。また、行政の要請に基づき行ったCVMによる劇場の社会的便益評価は、定点観測論文としても貴重な結果を得たものと考えている。海外調査によって得られた社会的利益の進展実態や国による相違に関する知見は、現在論文として取りまとめ中である。
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