研究課題/領域番号 |
20K00272
|
研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
橋本 明 愛知県立大学, 教育福祉学部, 教授 (40208442)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 精神医療史 / 台湾 / 精神衛生法 / ポストコロニアル / 台湾省議事録 |
研究実績の概要 |
2022年度には、戦後台湾が戦前日本の精神医療遺産を受け継ぎながら、戦後日本と類似の課題を抱えてきた状況、および台湾社会を反映させる形で整備された地域精神医療システムなどの展開を、おもに「台湾省議事録」などの文書資料にもとづいて検討し、以下のことを明らかにした。 戦前の精神医学研究・教育の中心だった台北帝国大学は戦後に国立台湾大学となり、精神科に赴任した林宗義は日本の医学教育を受けたエリートだったが、故国の台湾でアイデンティティ・クライシスに悩む。戦後台湾ではこうした日本統治の精神的な残像が認められ、台湾総督府によって築かれた病院設備等の物理的なインフラも受け継がれた。だが、大陸から国民政府が台湾に逃れ、多くの移民が流入して社会が混乱し、長期にわたる戒厳令下で精神医療は深刻な影響を受けた。 「台湾省議事録」によれば、精神病床の充足は戦後日本と同様の課題であり、1960年代初頭まで精神科病床の不足が、議員たちによって繰り返し訴えられている。だが、60年代終わりには精神医療改革の兆しが見え、戦前の台湾総督府時代の精神病院を刷新する動きがはじまった。さらに、1980年代には、精神障害者の「救済収容」から「入院治療」へと政策転換が行われ、精神保健立法の議論が開始された。また、台北市内の蛍橋国立小学校で起きた精神障害者による襲撃事件、高雄市近郊の龍發堂に収容された精神障害者の処遇問題などが、1990年の精神衛生法の成立を加速させたことも「台湾省議事録」から確認できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ感染拡大の影響で、予定していた台湾での調査が実施できず、資料収集が十分に行えなかったことによる。
|
今後の研究の推進方策 |
ウェッブ上で閲覧可能な「台湾省議事録」から、戦後台湾の精神医療改革および精神衛生法制定に至る議論は明らかにできたと考えるが、台湾各地の病院や施設で実施された1970年代以降の地域精神保健活動の歴史的展開についてはなお調査が必要である。現地での調査が可能な状態であれば、2023年度中に台湾に渡航し、資料収集を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染が収束しなかったために台湾での調査が実施できず、旅費をともなう資料収集が十分に行えなかった。今後の計画としては、台湾各地の病院や施設で実施された1970年代以降の地域精神保健活動の歴史的展開についての現地調査を行い、主としてそのための費用として支出する予定である。
|