研究課題/領域番号 |
20K00276
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
廣川 和花 専修大学, 文学部, 准教授 (10513096)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地域医療 / 医学史 / 診療録 / 医療アーカイブズ |
研究実績の概要 |
本研究は、複数の医療者がそれぞれ作成した各種の医療記録を比較検討し、類型化することを通じて、明治期の地域医療従事者による日常の医療実践を再構成することを目標とし、その第1段階として「既存資料の基礎的分析と所在確認済み資料の調査」を初年度~二年目に行うこととしていた。 本年度は、前者である「既存資料の基礎的分析」に重点を置いた。具体的な検討対象として、すでに調査を実施している3つの文書群(幕末~明治後期の在村医の診療記録、大学卒医師による診療記録、医学校卒医師による診療記録)を対比して、医療記録の基礎的構造を明らかにした。その結果、時期・段階ごとの法的な枠組みとそれらの法医学者などによる解説書と、大学病院等の大規模病院での勤務経験の中での知識の共有や一時的な「流行」のようなものが、一定の共通性を持つ診療記録形式の形成に寄与していることが見いだされた。そうした医療知識の共有のネットワークの外縁部にいる在村医も、複数の契機によってそれらの影響を受けたことを明らかにした。 後者の「所在確認済み資料の調査」は、新型コロナウイルス感染症流行の下では実施することができなかったが、新型コロナの流行を踏まえて、医学史や日本史分野で感染症流行の歴史に関する成果が多く緊急出版されたり、各地で既存資料の中から感染症や医療に関する資料の発掘が進んだこともあって、報道などによる知見も含めて新しい資料に関する情報を得ることができた。それらの情報をもとにして、各地の関係資料の所在状況を改めて整理し、研究状況の進展を正確に把握することにもつとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、複数の医療者がそれぞれ作成した各種の医療記録を比較検討し、類型化することを通じて、明治期の地域医療従事者による日常の医療実践を再構成することを目標としている。このことに関して、今年度は各地の資料館等での調査が実施できず、新規の資料を入手することは難しかったため、類型化のためより多くの資料を入手することにおいては課題を残した。 しかし、すでに入手済みの資料の分析を行うことに注力することができたため、今後調査活動が再開できるようになった段階においては、診療録という書類の資料に関する注目すべきポイントをあらかじめ絞ることが可能になった。たとえば、法律で定められた記入項目を備えた様式や、調製することを定められた帳簿類がそろっているかといったことである。また実際の臨床における書類作成に関しては、用語の統一性や学問的系統といったことにも注目すべきであることがわかった。 また今年度は、新型コロナの流行を踏まえて、医学史や日本史分野で感染症流行に関して多くの資料発掘や研究成果の公表がなされたこともあって、そうした情報を多く収集することもできた。これらを総合的に勘案すると、おおむね順調に進展しているといえるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の流行状況が好転をみせ、資料調査が再開可能になれば、当初予定していた調査をできるだけ早く実施したい。新たに得られた資料情報や新たな研究の知見も取り入れて、当初計画していた調査先に加えて、研究に利用できる資料の調査先候補を増やし、効率よく必要な研究素材を入手していく。
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