本研究は、近世~近代日本の地域社会において複数の医療者がそれぞれ作成した各種の医療記録を比較検討し類型化することを通じて、近世後期から明治期日本における地域医療従事者による日常の医療実践を、その連続面と断絶面に注目しながら再構成することを目標としている。最終年度となる本年度は、研究の第2段階として設定した「医療記録の類型化と医療実践の再構成」の作業を参照しつつ、第3段階の「地域医療の三要素の検討」を行った。 すなわち、地域医療の「近代化」の指標となる三要素(①診療形態と連関した医療費支払いの構造、②家族内での医療受給状況、③診療録の医学的記述)に関して、複数の医家の医療記録を比較検討する作業を行った。 具体的には、これまでに収集した栃木県の在村医の2事例に加えて、史料撮影・購入等によって入手した複数の開業医診療録の記述を総合的に比較・対照しつつ、②と③を中心に検討した。その結果、家族内での性別・年齢別の受診状況やその際の医療費消費金額、その地域的な特徴等を明らかにすることができた。この成果は順次、診療録のジェンダー史・社会史的分析に焦点を合わせた学術論文として刊行する予定である。 加えて今年度は、これらの研究によって得られた知見を、関係諸学会での発表・討論や書評等を通じて公表することで、近接領域の研究者との間で研究交流を深め、本研究の意義を高めることもできた。 以上の成果をとりまとめて、概説書や一般書籍の形でも公表する予定である。
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