研究課題/領域番号 |
20K00280
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
加藤 茂生 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (30328653)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 地質学史 / 植民地科学史 / 科学と帝国 |
研究実績の概要 |
本研究で検討しようとしている5つの課題「課題1 日清戦争後の遼東半島の地質調査」、「課題2 日清戦争・日露戦争間の中国各地の地質調査」、「課題3 日露戦争中・直後の満洲の地質調査」、「課題4 日露戦争後の間島地方における地質調査」、「課題5 「東京地学協会支那地学調査」」などに関係する地質学者の経歴や人間関係などのプロソポグラフィー的調査を行った。 「課題1 日清戦争後の遼東半島の地質調査」に関して、まず、日本人が調査する以前に遼東半島の調査を行ったドイツ人地質学者フェルディナント・フォン・リヒトホーフェンの地質調査について、先行研究をもとに、彼の地質調査の背景(関連する人物・組織、調査の意図など)を調べた上で、一次資料を元に、調査の過程(日程、経路、調査方法、調査における困難・問題点など)、調査結果(地質図、鉱床の状況など)を明らかにした。続いて、日清戦争後の遼東半島の地質調査に関する先行研究をサーヴェイしたのち、『清國遼東半島地質鑛山土性調査概報』などの一次資料に基づいて、東邦協会の白井新太郎や地質調査所所長巨智部忠承、鉱山局技師沖龍雄、地質調査所所員鈴木敏、鴨下松次郎、小林房次郎らが遼東半島の調査を行った背景(調査を指示した大本営との関係、人選方法など)、調査の過程、調査結果などを実証的に明らかにした。 従来、日清戦争後に遼東半島で日本人が地質調査を行ったことは知られていたが、その調査の内実はわかっていなかった。本研究によって、日本の地質学者たちが、どのような欧米の研究に基づいて地質調査を行ったのか、現地の住民からどのような知識を得て調査を行ったのか、遼東半島の鉱山の価値についてどのような評価を行ったのか、などが新しく明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年4月、緊急事態宣言の発出のため、主に利用することを考えていた早稲田大学図書館や東京大学附属図書館、国立国会図書館が利用できなくなり、研究の遂行に大きな困難が生じ、そのため、研究の遅延が生じた。後に早稲田大学図書館と国立国会図書館は利用できるようになったが、本研究に関連する重要な資料が多く所蔵されている東京大学附属図書館はいまだに学外者に開放されておらず、研究の遂行に支障を来している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の課題2と考えている、日清戦争・日露戦争間の中国各地の地質調査に関する研究を推進する。日清戦争と日露戦争の間(1898–1904年)に、中国各地でさまざまな日本人地質学者によって行われた地質調査、即ち井上禧之助の福建省・盛京省調査、平林武の江西省調査、金原信泰の盛京省調査、小川琢治の山東省・直隷省調査、細井岩彌の湖南省調査、山田邦彦の雲南省・四川省・貴州省調査、石井八萬次郎の福建省調査などについて検討する。 また、本研究の課題3と考えている日露戦争中・直後の満洲の地質調査についての研究も推進する。日露戦争中(1904年)の小川琢治・細井岩彌による満洲における炭坑の調査、黒岩休太郎・大築洋之助・辻元謙之助・川崎繁太郎・金原信泰・大橋多吉・福地信世・杉本五十鈴らによる満洲の金鉱調査、日露戦争終結直後(1905年)に黒岩休太郎・大井上義近・小川琢治・大橋多吉・大築洋之助らによって行われた満洲の鉱産資源調査等について検討する。 東京大学附属図書館はいまだに学外者は利用できないため、早稲田大学図書館や国立国会図書館など利用可能な図書館や文書館を活用して研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の世界的流行により、国内外を移動しての資料収集や学会・研究会での発表等が困難になったため、主に物品費や旅費の費消が予定より大きく下回ることとなった。 新型コロナ感染症の収束はまだ見通しが立たないため、上述した状況は2021年度も大きく変わることが無いように思われる。そこで、オンラインで古書店にある資料の探索を徹底的に進めて、有益な資料を発掘し、物品費を有益に利用することを考えている。また、遠隔地の図書館・文書館の資料の探索も、新型コロナ感染症に最大限に気をつけつつ、少しずつ遂行することも検討している。
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