研究課題/領域番号 |
20K00283
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研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
小野 尚香 日本福祉大学, 福祉経営学部, 教授 (70373123)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経発達症群 / 支援システム / 保護者支援 / 専門職研修 / スウェーデン |
研究実績の概要 |
COVID-19感染症蔓延の状況が長期間続き、今年度も予定していたスウェーデンでの現地調査を行えなかった。そのため、現地で予定していた視察並びに参与観察と、ブリガンの専門職スタッフに対するインタビュー調査を断念した。その代わりとして、本年度は、Zoomによるインタビュー調査と、資料収集に重きを置いた。具体的には、ブリガンの活動を経年的に整理し、専門職の資質能力に関してブリガンの専門職にインタビューを行い、保護者に対するインタビューの段取り(質問内容、倫理申請など)を整えた。研究対象は、幼児期を中心とした神経発達症群が疑われる子ども達への、多職種連携による包括的支援を目指す組織であるブリガンの「神経発達症群の支援を有機的に構成する専門職の資質能力と社会的機能に関する」内容である。 今年度、この研究において遂行できたこと並びに成果は次の3点である。①資料収集と翻訳作業:主な資料は1994年と2003年の新聞記事と、2012年のブリガン活動の評価文書ならびに2013年~2020年までの関わる行政文書であり、翻訳および整理を行った。②ブリガン活動開始前の1994年の新聞記事には、ブリガンを主導する医師と看護師による神経発達症群の範疇にある子どもたちの現状についての問題点と思いが記されている。また、活動開始後7年後の2003年の新聞記事には、ブリガンが多職種連携により、幼児期後期を対象として包括的支援を進めてきた経緯が示されている。③この3本の記事は2021年6月と12月発行の日本医史学会関西支部機関誌に掲載され、さらに2022年6月発行に向けて印刷中である。 資料とインタビュー調査により、子ども支援ならびに親支援の有効性、ブリガン組織内外の専門職への研修などを積極的に行い、地域における発達障害に対する知識の底上げを行っていったことも、より適切な支援に繋がったことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19感染症蔓延の状況が長期間続いており、今年度も予定していたスウェーデンでの現地調査を行えなかった。そのため、現地で予定していた視察並びに参与観察と、ブリガンの専門職スタッフに対するインタビュー調査を断念した。 急遽、Zoomによるオンラインでインタビューを受けてくださる方を探し、まず、ブリガンを主導するスタッフである、医師、看護師に対して、Zoomを利用したインタビューを合計10回予定し、その内、5回(医師:2時間×3回、看護師:2時間×2回)実施した。引き続き、2022年度にZoomでのインタビュー調査の約束を得ている。また、ブリガンのコーディネータとは、先方の希望により、メールでのやり取りを行ったが、現地で視察や参与観察を行いながらのやり取りとは異なり、得られる情報は少なかった。 その一方、昨年度収集したブリガンの活動に関する新聞記事、ブリガンのスタッフを通して入手した行政報告書や外部評価等の資料を詳読し、翻訳と共に3本の論文投稿(2本掲載、1本受理印刷中)を行った。保護者支援については、ブリガンでの方法論を活用した6本のエッセイを記した。保護者に対するインタビュー調査も、Zoomでの了解を得て9名が確保でき、書類のやり取りをしながら、また倫理申請の結果を待ちながら段取りを進めた。 資料の分析は、スウェーデン語を日本語に訳し、単に資料を読み込むことだけではなく、ブリガンを主導してきた医師と看護師に対するインタビューならびにコーディネータへのメールによる質疑応答から知り得た内容を合わせての成果である。子ども支援や親支援にとどまらず、ブリガン組織内の専門職の研修さらに地域の専門職や政治家への啓発活動を積極的に行い、地域における神経発達症に対する知識の底上げを行っていったことも、より適切な支援と理解に繋がっていったことが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
研究の方向性としては当初の計画と概ね変更はなく、研究目的も、対面調査や資料収集を基本とした方法も変わらない。次年度もCOVID-19感染症に関する状況は不明瞭であり、スウェーデンを訪問しての研究は難しいことも考え、Zoomを活用したオンラインによるインタビュー調査を進めていく。引き続き、ブリガンのスタッフと、神経発達症群の範疇の困難さがある子どもの保護者と家族会の代表に対するインタビュー調査の準備を進めている。 4月から6月にかけてブリガンの専門職ならびにコーディネータに対して、6月から9月にかけて保護者9名と家族会代表1名に対して、インタビュー調査を計画している。英語が堪能ではない場合には、スウェーデン語と日本語の通訳に同席を依頼している。本学の倫理委員会の許可も得た。 その結果から、ブリガン・スタッフについては、資質能力の開発の経緯と実際の活動内容、その社会的機能についての分析を進める。また、保護者に対しては、保護者にとっての有用な支援、それにかかわる専門職の役割、子どもに対する感情や接し方とその変化、障害受容などについて、分析し考察する。 さらに、2021年度に収集し翻訳した第三者評価の報告書や行政文書を整理してブリガンの活動を多角的に分析し、論文として投稿する予定である。また、ブリガンで使用しているアセスメントに関わる評価表については、翻訳をすすめ、日本でも実際に子どもに対するアセスメントとして試用できるように精査して日本版を作成することを目指す。 また、日本との比較として、先行研究や、同様な経験を有する日本の保護者へのインタビュー調査との比較、加えて、医学・心理学の知見と支援との関係性、専門職役割、社会的機能を検討するために日本における近現代の実践者の理念や活動と比較し、社会背景や医学的知見の相違を超えて、共通する支援の社会的機能について比較検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染症の蔓延により、海外渡航が難しくなり、2020年度に続きスウェーデンにおいて神経発達症群の子どもへの支援に関わる活動に対して、視察ならびに参与観察を行うことや、専門職や保護者に対する対面調査ができなくなったことが最大の理由である。 現地での直接インタビュー調査に代わり、インターネットを用いたオンライン形式によるインタビューを取り入れることで、研究を続けることができている。しかし、Zoomを用いたインタビュー計画において、メールでの事前やり取りや時差を考慮したインタビューの時間設定、通訳の依頼など、段取りをセッティングするために時間を要した。現在、計画したインタビュー調査全体の4分の1(2時間×5回分)を終えたところである。 次年度は、引き続き、Zoomによるオンライン・インタビューを進め、ブリガンの専門職と神経発達症群の範疇の困難さがある子どもをもつ保護者9名ならびに家族会代表1名へのインタビュー調査を計画通り遂行する予定である。通訳や翻訳や校閲(添削)は折々に必要である。また、日本およびスウェーデンでのCOVID-19感染症の状態を鑑みながら、本研究で当初予定していた渡瑞の機会や、ブリガンを主導した医師の招聘も合わせて探っていく予定である。
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