研究課題
基盤研究(C)
近世中後期の上方における読本制作の特質とその事情について、同時代の学芸の潮流との関連を捉える目的で、作品における歴史的事項の題材と、それに関する近世期の研究・文献からの影響に着目した解明を行った。政治・社会・文化史的事項を描く作者や、南北朝の動乱、文禄・慶長の役を描く読本を検討対象とした。結果として、史伝の主題や時事に対する戯作者の態度とその表出の技巧等、読本作者による研究史の受容と創作における認識の投影の一端が明らかとなった。
日本近世文学
従来、江戸で制作された稗史ものの読本に比して文学性の点で評価が低かった上方の読本について、制作事情に即した解釈を加えたものであり、複眼的な評価や作品群の位置付けの再考に資する研究成果であると考えている。また、作者の閲歴・文芸圏と近い位置にある同時代の学術研究の気運との連関を具体的に検証したものとして、隣接領域とも連なる学芸の情勢と文壇の認識・知識体系の解明に資する意義があると考えている。