研究課題/領域番号 |
20K00289
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
鈴木 広光 奈良女子大学, 人文科学系, 教授 (70226546)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 日本文学 / 分析書誌学 / 未来記 / 出版史 / 読書空間 |
研究実績の概要 |
本研究は、テクストに物質的形態を与え、書物を構成する諸要素が、読者にどのようにジャンルを意識させ、読み方を規定していくのかを、明治10年代以降、日本で盛んに出版された「未来記」という書物群を経年的に観察することによって析出しようとするものである。「未来記」が近代日本の社会状況の中でコミュニケーション上どのように機能したのかをめぐって、出版物の形態と「読まれ方」との相関関係を分析し、ジャンルの形成と変容を明らかにすることで、テクストと書物と読者の関係性についてモデルを提案することを目指している。以上のような研究目的のもと、本年(2001年)度は下記のような成果を得た。 (1)明治前半(1880年代)から昭和初期(1930年代)までの約50年間に刊行された、書名に「未来記」を冠する出版物を80点ほどリスト・アップし、このリストを基に明治20~30年代の「未来記」「未来」を冠する古書を10点程度購入した。このリストは、図書館等での資料調査および撮影の基礎データでもあるが、本年度はこちらの調査・資料収集は行えなかった。 (2)「未来記」「未来」を冠する出版物のうち、『新未来記』『二十三年未来記』が備える前近代と近代を架橋する書物形態およびパラテクスト的諸要素を有するものは、明治20年代前半のもののみで、それ以降は書物の物理的形態、パラテクスト、テクストの叙述のあり方等が大きく変化していく様相が観察された。この変容の要因については次年度以降に考察したい。 (3)明治20年刊の『社会進化:世界未来記』については特にその造本のあり方を分析書誌学の方法により精密に記述した。これにより、今後「未来記」を調査するための指標を抽出することができた。該書については、ロビダのフランス語原典との比較も行い、翻訳の概要を把握することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)本年度は全体の研究計画の基盤整備の位置づけで、国内図書館の資料調査・収集を重点的に行う計画を立てていた。そのためのリスト・アップを行っていたのだが、コロナ禍のため、旅行を伴う資料調査・収集を行うことができなかった。この点、やや研究の進捗状況に遅れが生じた。 (2)そこで計画全体を見直し、「未来記」の古書を購入し、分析書誌学的手法を用いて精密に記述することで、今後の調査のために重視すべき指標を抽出することにした。この指標は、テクストと書物の物質的形態と読者の関係性の変容を追跡する上で、考察のためのモデルを形成し得るものである。今後の研究はこのモデルの妥当性を検証するために、資料調査の規模を広げていきたいと考えている。方法の見直しによって、2021年度内に遂行出来なかった計画は、研究遂行の上で遅れを意味するものではなくなった。 以上の理由により、本研究の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)2021年度は、「未来記」と主題を共有し、近未来の政治・外交・戦争・文明について警世を意図して批判的に論じる書物群も同様に調査対象に含め、両者の異同のあり方を経年的に調査する。「未来記」を冠する出版物は従来、〈政治小説〉に含められることがあったが、「未来記」や「未来」という語がタイトルに冠されることの意義については、パラテクストとしてジャンルの形成や編制に関与することが予想される。なお、2021年度も調査旅行は難しいことが予想されるので、古書の現物購入を行い、それらを精細に記述して、テクストと書物(物質的存在)と読者から構成される読書空間モデルのより妥当性の高いものを、提案することを目指したい。 (2)2022年度は 前年度までに進めることが困難であったと各地に所蔵される未来記関係の資料を調査し、撮影して、ここまでの研究を補完する。コロナ禍によって調査からモデル構築という順序が、モデルの提示をまず行い、それを資料によって確かなもとのとする方向性に転換せざるを得ないが、2021年度の分析書誌学的記述を精細なものにしておくことで問題点を克服できると考える。モデルは共時的なものであるが、経年的な観察によって、「未来記」の変容や「未来」の意味変化とテクストの叙述のあり方の関係を明らかにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために旅行を伴う資料調査を遂行することができず、調査旅費およびそれに伴う資料撮影のための経費(その他経費)を使用しなかったため。
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