研究課題/領域番号 |
20K00302
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鳥羽 耕史 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90346586)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マスメディア / サークル / 記録 / アダプテーション / 映画 / 文学 / ルポルタージュ / ドキュメンタリー |
研究実績の概要 |
高度成長期のマスメディアと、アマチュアが担ったサークル運動における「記録」との相互依存的な関係を検証し、今日的な意義を探るのが、本研究の目的である。高度成長期においては、テレビ、ラジオ、映画、新聞、商業出版などのマスメディアのコンテンツが、純文学の作家たちによって供給されただけでなく、しばしばアマチュアによって担われていた。工場労働者、学生、主婦など、幅広い層によって支えられたサークル運動においては、生活記録や生活綴方、さらにルポルタージュ絵画、幻灯や記録映画などの「記録」が大きな意味を持っていたが、それらは単にサークル内や周辺の人々によって享受されただけでなく、マスメディアを通じて広く発信される回路が形成されていった。国内外のアーカイブ、図書館、文学館、映像ライブラリーなどを博捜することによって、そうしたメディア発信の例、および元になったサークル側の「記録」を集め、マスメディアとサークルとの相互関係の意味について考察するのが本研究の目的である。 今年度に発表したのは、別項に記した通り、分担執筆3冊4件、共著1件、論文1件の業績である。このうち、「ルポルタージュを劇映画にするということ――『気違い部落』とその周辺」が、この研究課題にとって最も中心的な論文であり、きだみのるや杉浦明平によるルポルタージュが、劇映画とどのように関わったかを論じたものである。「コラム サークル運動と〈作者〉」と「コラム4 サークル運動」も、サークル運動にかかわる概説を行ったものであり、この研究課題に関わる。「安部公房『箱男』 開放系としての箱」と「政治・芸術運動のなかでの『現代詩』」は文学の視座から、「《追悼》戦後日本における池田龍雄」は美術の視座から、戦後日本の文化運動にアプローチした内容となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、サークル運動が生んだ「記録」の諸相について、基礎的な調査を行う年度と位置づけ、国内外の図書館、文学館などでサークル関係資料調査を行う予定であったが、新型コロナウイルス流行による緊急事態宣言などで、出張できない状態に陥ってしまった。そのため、研究は東京周辺の図書館、文学館、および全国の古書店から購入した図書などの資料に頼らざるを得なくなった。出張せずに行える文献調査と、映画フィルムの取り寄せとテレシネ(デジタル化)、および成果発表が、今年度の主な実績となった。テレシネを行った『紙でつくる版画』および『たのしい版画』は、サークル運動の中で盛んであった版画運動に関わる重要な映画で、これまでは観られる機会のなかったものである。こうした資料発掘と、研究発表とを行って、出張のできない状態でも成果を出したので、おおむね順調な進捗状況だと言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
2021年5月現在も緊急事態宣言下にあり、出張が制約される状況に変わりはない。海外出張などは見込みの立たない状態になってしまった。当初の研究計画を変更し、遠方の図書館などへの出張から、近隣の図書館、文学館などでの調査に切り替えて研究を進めていきたい。国立国会図書館、法政大学大原社会問題研究所、日本近代文学館など東京都内や、神奈川近代文学館、放送ライブラリーなど神奈川県内などが、有力な調査スポットとなるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外、国内ともに出張調査ができなくなったため。次年度に出張できるようになれば出張費として使用し、依然として無理な状況が続くようであれば、資料購入費などに充てる計画である。
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