研究課題/領域番号 |
20K00306
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
中本 大 立命館大学, 文学部, 教授 (70273555)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 狩野派 / 常信縮図 / 水墨画 / 漢画系画題 / 銘 / 馬蝗絆 / 東山御物 / 角倉 |
研究実績の概要 |
2021年度は、東京文化財研究所が保存する狩野派縮図・粉本資料写真版の悉皆調査を継続し、東京藝術大学所蔵「常信縮図」第44巻までの調査を終了した。2020年度の報告書でも記したように、狩野探幽の甥である狩野常信は、江戸狩野家における絵画情報の集積と分類、現代で言うアーカイブスと画題のデータベース化に意欲的であった先駆的な人物である。その縮図類は室町時代から江戸時代に至る狩野派の伝統の継承と革新の証左のみならず、本研究課題の源流でもある「和漢論」を論じる際の根幹とも言うべき資料群であると考えられる。2021年度の主たる調査対象は名所絵が中心で、和漢の題材が混在し、土佐派を取り込み、和漢に亙る絵画制作で画壇に君臨した狩野派の影響力の大きさを端的に窺い得る資料であったと評価できる。 一方で2021年度も新型コロナウィルス禍の影響が顕著で、出張をともなう調査実施が厳しく制限されたため、当初計画立案していた調査や複写のほぼ半分ほどしか遂行できなかったのは極めて遺憾であった。 他方、並行して実施した「銘」の研究は進展した。江戸時代の享保年間の日記に見られる「馬蝗絆」関連の記載を端緒とした論考「二次創作された東山文化の「和漢」――享保年間の「馬蝗絆」をめぐって――」を完成させた。2022年度に公刊の予定である。ここでは中国南宋時代の青磁の名器であるという「出自」とともに東山御物としての伝来、来歴が重要な要素として名物の評価を形成していく江戸時代の時代状況が、まさに珠光「心の一紙」に見える「和漢のさかいをまぎらかす」ことにも通じていることを考察している。また、その評価確定への道程の中心にあったのが素庵以来、京都に名を馳せた名家、角倉家であったことの意義は、2022年度への継続課題として新たに設定し得るテーマであると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度も新型コロナウィルス禍の影響が顕著で、出張をともなう調査実施が厳しく制限されたため、当初計画立案していた調査や複写のほぼ半分程度しか遂行できなかったのは極めて遺憾であった。特に主たる調査先である東京文化財研究所は、昨年秋から閲覧室の開室日が週2日に拡大されたものの、緊急事態宣言中の夏季休暇期間は週1日の開室であったことや、事前予約制で、利用人数制限も非常に厳しく、キャンセル待ちも叶わず、止む無く午前中のみで退室せざるを得ないこともあり、目標達成の困難さを予見させる厳しい研究進捗状況であった。取り巻く状況は理解できるものの、図書館などの他の公的機関と比較してかなり厳格な運用方針であり、現状に即した柔軟な体制への移行を望むものである。2022年度からはコロナ前と同様、週3日開室に戻るとのことで、人数制限も現況にあわせて見直し、閲覧機会の確保に努めていただけることを願うばかりである。 他方、「銘」の研究は、橋本雄氏や三笠景子氏、橋本素子氏を中心とする「茶の湯研究会」の教導もあり、予定通りに進展した。
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今後の研究の推進方策 |
資料調査については、事前に工程表を確定していたものの、大幅な見直しを余儀なくされている。新型コロナウイルス感染状況が改善し、条件が整いさえすれば、ただちに工程表を再検討する予定である。本来であれば、2021年度中に完了予定であった東京文化財研究所における「常信縮図」調査は2022年度中には完了したいと考えている。「画題」の個別的具体的検討については、以下の観点を踏まえた考察に着手している。掲げた目標は、 ①和歌や連歌における漢学受容の観点に「画題」による契機や影響関係を考察すること②上記とは逆に本邦における漢画系画題に、和歌や連歌との交感の影響が看取できないか検証すること③いわゆる「和漢論」について考察する視座を提起すること、という三点であった。 具体的な考察の端緒として国立公文書館内閣文庫が所蔵する『倭漢詩歌合』を取り上げたいと考えている。本書は林羅山と中院通村の協働による成果で、和漢それぞれ30人の人物の作品を詩歌合に準えた作品である。2021年度に同名の新出諸本を架蔵したので、その紹介を中心に、近世初期における「和漢」の捉え方について言及したいと考えている。それを踏まえ、新たな「和漢論」の提起に繋げることを目標に、2022年度の研究推進方策を定めることとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度と同様、理由はコロナ禍による移動・閲覧などの各種制限である。本来実施すべき出張をともなう調査だけでなく、出張をともなわない代替の調査についても、所蔵先機関の諒解を得られず、調査に至らなかったのは残念であった。断られた事由の多くは、2021年度も感染対策の不備であった。換気設備の不備で、閲覧場所を確保できないというのがその理由である。他方、公的施設については、類似の感染レベルであっても、自治体によって対応が異なるため、所蔵先機関も対応に苦慮しているようであった。事実、4人掛けの広いテーブルに1人のみを座らせるという方針は、飲食店でないにも関わらず、あまりに現実離れした対応と嘆息したものであった。政府からの要請は重みがあるため、告示に慎重になることも理解できるものの、公的機関の対応が多岐に亙り、その結果、研究推進の足枷となることが無いよう、関係機関におかれては、適切な指針を示していただけると幸いである。 2022年度の感染状況をめぐっては予断は許されないものの、色々な意味でこれまでの停滞を挽回できることを期待している。それを踏まえ、2022年度は当初計画していた調査日程を劇的に増やし、2021年度予定分とあわせた成果を挙げることができるよう、出張をともなう調査を計画している。
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