最終年度はこれまで収集してきた太宰治関係資料の整理作業を中心に行った。本研究は太宰治の直筆資料等の関係所蔵機関との情報ネットワーク作りと、これまでの研究代表者の太宰治に関する論考を研究書として集大成する作業との二本の柱から成り立っており、両者は密接に連動している。研究成果は2021年12月に東京大学出版会から刊行した『太宰治論』(1184p)に結実し、そこに発表した内容を、三鷹市、山梨県立文学館、青森県近代文学館等の諸機関と共有する形で情報交換することが出来たので、きわめて有効なコミュニケーションを実践することができた。一例としては、太宰治が中学時代に刊行していた同人誌「蜃気楼」(全12冊、完全セットとして唯一のもの)が山梨県立文学館の架蔵となった際、本科研の情報ネットワークが大きな役割を果たしたことなどが挙げられる。三鷹市の太宰治顕彰事業に関しても、「山内文庫」をはじめ、関係者の多くの寄贈資料が同市に寄せられたことと、本情報ネットワークとは密接な関係を持っている。なお、『太宰治論』は令和6年3月(本研究期間の最終月)に日本学士院賞を授賞したが、これは本研究なくして成り立たなかった成果であり、本科研が太宰治の研究、ひいては日本の近代文学の研究一般に大きく資するものであったことを客観的に証するものである。今後『太宰治論』執筆に用いた資料を広く研究者相互に共有することができるよう、最終年は用いた膨大な複写資料(この中には実物が散逸して確認できなくなっているものが多数ある)を製本等の手立てによって整理することに意を割いた。関係機関への寄贈など、科研の成果として公開する手立てを考えていきたい。
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