研究課題/領域番号 |
20K00313
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
須田 千里 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60216471)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 「生霊」 / 「黄泉から」 / 「彼岸過迄」 / 「それから」 / 「処女作の祟り」 / 近世日本国民史 / 「遣米日記」 / 「公用方秘録二件」 |
研究実績の概要 |
2021年度も、コロナ禍の小康状態を縫って神奈川近代文学館への出張を二度行い、未確認の原稿・草稿・手入切抜・創作メモ類をすべてデジタルカメラで撮影するとともに、プリントアウトした。かなりの枚数となり、経費もかさんだが、手元に画像として残されることで、今後の研究の基礎となる。久生十蘭関係の肖像写真も残りを確認し、必要に応じて撮影した。これによって、資料全体のほとんど全てを確認・撮影したことになる。来年度は撮影した資料の翻字と分析・解題を行う予定である。 一方、昨年度予定していた「生霊」「黄泉から」に関する論文を完成した。「生霊」については作品の舞台(白川村と唐谷)、その土地の風俗との関わりを明らかにし、二重性のモチーフや盂蘭盆に迎え火を跨ぐ習俗のリアリティ、主人公が別人に成り変わるモチーフと漱石・百閒・ポーとの関わり、松久三十郎物としての「豊年」等との関わり、改稿版「巫術」における沖縄とマニラとの混用の問題などを考察。一方、「黄泉から」については、綾瀬川の月見の場面が漱石「彼岸過迄」に拠ること、その影響が「黄泉から」全般にわたってみられること、さらに「それから」の影響も看取されること、同じく「千代」の名を持つ川端康成「処女作の祟り」の影響が初期の「な泣きそ春の鳥」「亡霊はTAXIに乗つて」「つめる」から本作まで及んでいること、謡曲「松虫」の影響、その縁で7月13日には未だ鳴いていない蟋蟀を出したこと、雪や月との二重化がカイマナと日本で見られること、現実・非現実との間で宙づりにされる幻想文学性などを考察した。 また、「遣米日記」「公用方秘録二件」「不滅の花(インモンテル)」「ヒコスケと艦長」など幕末維新物の歴史小説の共通材源が徳富蘇峰『近世日本国民史』であることが判明した。本書には従来稀覯とされた史料は本書から作品に摂取できる。現在論文執筆に向け準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
久生十蘭の草稿・原稿・手入切抜・創作メモ類はすべて確認し、写真撮影を行ってプリントアウトを行った。その翻刻と分析、解題を最終年度一年で行う予定であるが、手入切り抜・創作メモ類などが予想以上に多かった(字が細かかった)ため、一年で完了できるか、やや不安がある。 また、「生霊」「黄泉から」についてはすでに原稿を完成し、現在投稿中で令和4年度中に公刊する予定である。 こうした調査や久生十蘭文学の注釈・材源確定のための資料を購入していったが、年度末には若干資料費が足りなくなった。この点は最終年度に持ち越して研究を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
久生十蘭の草稿・原稿・手入切抜・創作メモ類の翻刻・分析・解題などについては、夏休みなどを利用して精力的に行いたい。その過程で疑問点が出れば適宜出張して神奈川近代文学館など関係図書館で調査を行う予定である。 また、久生十蘭全体に関わる研究としては、「遣米日記」「公用方秘録二件」など幕末維新物の歴史小説の共通材源として徳富蘇峰『近世日本国民史』が想定できるため、これを論文化する予定である。その他、調査の過程で明らかになった事柄は適宜研究を深め、今後の論文化を目指す。 引き続き、久生十蘭関係の図書や雑誌も購入する。
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