研究課題/領域番号 |
20K00315
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
田中 尚子 愛媛大学, 法文学部, 教授 (50551016)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 学問・注釈 / 室町 / 三国志 / 日本紀 / 学者 |
研究実績の概要 |
昨年度の研究の基盤作りを受けて、実際にその成果を形作っていくことをある程度実現できた1年であった。もっとも昨年度に引き続いてコロナによる影響は大きく、出張は国内さえ全くできず、ネットによる資料収集や、書籍購入、書籍取り寄せといった手段で研究の基盤を整えていく形で乗り切らざるを得ない状況ではあり、研究遂行の難しさを常に感じながらのこととはなった。 とはいえ、昨年度に着手し、当該年度に本格的に進めていったいくつかの論を世に出すことができた。具体的には、『御成敗式目』に関する論(「学問と法―清原宣賢の式目注釈活動」〈『『室町・戦国時代の法の世界』』吉川弘文館 2021・6〉)、『三国伝記』における三国志享受に関連しての論文(「『三国伝記』が伝える室町期の三国志受容」〈『三国伝記を読み解く』勉誠出版 2021・11〉)、『史記抄』内の日本関連叙述の中に、直に中世日本紀、日本紀注釈的な世界観が見えることを指摘した論文(「室町期における中国史書研究の背景―『史記抄』が繙く日本紀の世界―」〈日本文学70-6 2021・6)、キリシタン御教論書の中に取り込まれる日本紀注釈的な要素があることを示した論文(「中世の思想・学問の捉え直しの契機としてのキリスト教―その伝来、そして既存の学問との接点―」〈古典遺産70 2021・6〉)などを手がけた。さらに室町期の学問の出口を理解するべく扱った江戸期における日本紀受容に関する研究(「『舜旧記』にみる神龍院梵舜の日本紀へのアプローチ―吉田家の学問活動の一齣として―」〈愛文57 2022・3〉)にも取り組んだ。 室町の三国志および日本紀の享受、それに連動する学問の発展事情について、多角的に検討することができたかと思う。次にはこれらを結び付ける作業が必要となろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度もずっとコロナ禍が続いたままで、結果的には国外への出張はもちろん、国内の移動についてもほぼ認められずじまいの状況となっている。それこそ当初予定していた国際シンポの開催は見通しが立たないまま、時だけが経過していく状態である。そういったところ、当初計画したものと実際に遂行していることのずれといった点からすれば、たしかに順調に進展という見方は適切とは言えないだろう。 しかし、代替措置という言葉が適切かは心許ないながら、元々立てていた国際シンポを主軸に置いた計画を軌道修正することで、自身の単独の研究を進めるところに時間をじっくりとることができたのも事実である。昨年度の研究成果を踏まえながらまとめていった論文が複数刊行されたことに目を向けるならば、おおむね順調に進展しているといった評価をしても問題はないように感じている。 また当該年度に公開した研究論文が縁となって、さらなる研究課題が生まれたこともあり、いい形での研究の循環がなされるようになってきた。コロナの収束も一応見とおせるようになってきたことから、国際学会での発表を視野に入れた研究の打ち合わせもスタートさせている状況である。その点でもおおむね順調な研究の進展であったと見なすことはできる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度にあたる2022年度には、これまで整理してきたデータを元に口頭発表、もしくは学術論文執筆の形で、研究成果を公開していく所存である。 研究着手前には研究計画2年目に開催を予定していたものの、コロナ禍によって1年先送りして最終年での開催を検討していた国際シンポについては、いまだ世の中の動向的に不透明なところがあるため、その実現が叶わないことも想定して動くつもりである。シンポで取り扱う予定だった内容については、今後新たに打ち立てていくこととなるであろう研究課題に吸収させていく方法を模索していきたいと考えている。できるかできないかわからないところで悩むよりは、違う形式を見つけ出す方が有益と判断してのことである。 資料収集、データ整理については、2021年度に資料整理補助の仕事を担当してもらう院生を雇用し、複数人の手を借りることで、研究遂行のスピードアップがはかれた。また、その作業スタイルをある程度マニュアル化できたようにも思う。こういった研究作業に加わってもらうことで、若手の育成にも繋がる面があると考えるため、最終年度においてもひき続き院生達に作業補助を依頼するつもりである。そして、それによって研究成果の公開のスピードアップをはかっていきたい。 最終年度は本研究課題をまとめていくとともに、次の研究課題を形作る時期にあててい必要もあろう。本研究課題から次の研究課題へのスムーズな意向を探っていきたい。そのためにも、まずは本研究課題および成果の位置づけを適切に行っていかねばならないと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題においては、2年目となる当該年度に国際シンポを開催するつもりであった。その予算を申請していたわけだが、コロナによる諸々の制限が継続したため、開催は不可能となった。次年度に開催できる可能性を模索するべく(なかなかに難しいとは思いながらも)、当該年度の予算の一部を次年度に繰り越しすることを判断した次第である。
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