最終年度として、室町期の学者たちの学問事情についての考察の事例を増やしていった。本研究の主たるテーマは三国志と日本紀享受ではあったが、その周辺の事情を考えるべく、その2テクストに限定することなく、注釈・学問全般について考察を進めていった所存である。具体的には、第71回愛媛国語国文学会において「北条泰時と「御成敗式目」―無住の説話と式目注にみるその評価の変化―」という題目で発表を行い(2022年11月6日)、それをもととして、「北条泰時と『御成敗式目』―『式目』注にみるその評価の変化―」という形で論文にまとめた(愛文58号、2023年3月)。『式目』注は、日本の歴史を意識するものであり、またその注解には中国との比較も取り込まれている。よって、この成果が、結果的に当該時期の三国志享受や、日本紀理解の相対化を可能にする一助となったものと考えている。 注釈関連の資料整理については、先行研究の収集ととともに、学生補助員の力も借りつつ行ってきたが、これらを用いての考察は、次年度以降にも継続して行っていくつもりである。 また『アナホリッシュ國文學』11号での「学会時評―中世」の執筆を担当した(2022年11月)。学問・注釈研究に携わる立場からの目線でまとめてほしいとの要望に沿うべく、本研究とも繋がる観点から論じるようつとめた。ある意味、自身の研究のスタンスを見直すことともなり、本研究課題遂行を後押しするところに繋がったと思われる。事実、上述の論文を執筆する上では、ここで一度先行研究をまとめていたことが大いに役立った。 尚、2017年に刊行し、絶版となっていた拙著『室町の知と学問の継承』がオンデマンド版で再度刊行された。本研究課題にも結びつく研究成果を、改めて世に出せたことも、当該領域の研究の進展というところでは、大きな意味があったと考える。
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