今年度は、以下の4点について注力した。 (1)武田本甲本の本文策定…昨年度に引き続き、武田本甲本の翻刻を進めている。対校本文と照らし合わせながら進めているが、武田本本文の独自性を、具体的に把握しつつある。ただし、その独自性の意味については、もう少し作業が進まないと総括することは難しいと思われる。 (2)流布本本文の策定並びに注釈…流布本『曽我物語』の注釈作業を終了し、公刊へむけた準備に入った。注釈作業全般を通して明らかになってきた、流布本(仮名本系諸本)と真名本との時系列の記述に関する相違について、仮名本独自の年表を作成し、それに考察を加えたものを研究論文として『大妻国文』に発表した。この年表は、刊行予定の流布本『曽我物語』にも掲載する予定である。また、流布本本文が把握する作品中の地名についても地図上にプロットして真名本や他の仮名本との相違を検討している。 (3)説話文学との関係…説話文学会/軍記・語り物研究会合同例会のシンポジウム「『曽我物語』と説話」」において、司会を担当する機会を得た。『曽我物語』研究の課題を、説話を手がかりにあぶり出そうとするもので、3名のパネリストに発言を依頼してその議論の方向性を調整した。当シンポジウムの成果は、2022年度の『説話文学研究』第57号に掲載される予定である(入稿済み)。 (4)研究成果の還元…一般読者向けのムック本『曽我物語 源氏をめぐる陰謀と真実』において原稿執筆・監修を行った。学会における研究成果をふまえて、『曽我物語』全般について解説した。こうしたことを通してこの作品の認知度を上げることが、今後の研究の進展に繋がってくると考えている。
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