研究課題/領域番号 |
20K00321
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
藏中 しのぶ 大東文化大学, 外国語学部, 教授 (40215041)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 伝 / 賛 / 肖像 / 南総里見八犬伝 / 禅宗史伝 / 七仏通戒偈 / 旃陀羅 / 正法眼蔵 |
研究実績の概要 |
古代の墓誌16例・墓碑19例に、銘文のみ伝存する碑文を加えて26例を示し、2例にみえる【序】【銘】の形式が、八世紀後半の大安寺三碑のうち、『南天竺婆羅門僧正碑并序』において完成するとした。それは菩提遷那の【肖像】とこれに対する【像賛】という【銘】である。その序文【序】が高僧伝を詳細に叙述する。最古の高僧伝は、【肖像】のための【像賛】とその【序文】という構造であった。大安寺三碑のうち、「前序」のみ伝存する「道セン碑文」にも【銘】があった可能性を指摘、これらが「平安朝以降の讃の文学」の先蹤であり、空海撰『故僧正勤操大徳影讃并序』に先立つことについて、唐代の初期禅宗史伝の影響を想定し、検討中である。 この知見は、前年度のイタリア・パリ国際シンポジウムの成果である。その内容を「伝・賛と肖像の文学史」(『水門―言葉と歴史―』30号小特集)として刊行、次の10名の論考により、伝・賛と肖像が深く大きく日本文学史に展開する具体相を呈示した。唐代詩人伝の構成(三田明弘)、禅と茶の湯(フレデリック・ジラール)、東照宮三十六歌仙扁額の和歌賛と歌人の肖像(オレグ・プリミアーニ)、絵巻『馬毛同異図』の背後にある那波道圓と狩野山雪をはじめとする文化人ネットワーク(アントニオ・マニエーリ)、近世絵入り百科事典『訓蒙図彙』と『和漢三才図会』の関係論(楊世瑾)、松尾芭蕉の賛と肖像(安保博史)、摺物の狂歌賛(高木ゆみ子)、『南総里見八犬伝』の伝・賛と肖像(安保博史・藏中しのぶ)、東大寺二月堂・青の階段の意匠と『華厳経』(田中教子)である。 日中古代寺院の関係論としては、『南総里見八犬伝』の『正法眼蔵』引用、『骨董集』所載の山東京伝蔵「七仏通戒偈」引用、また近世絵入り百科事典『茶譜』をはじめとする茶道文献の禅語引用を通して、禅宗史伝への理解を深め、上代の大安寺三碑と鑑真伝三部作と初期禅宗史伝との関係を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
かねてより、問題意識をもっていた唐代禅について、『南総里見八犬伝』の伝・賛と肖像、茶の湯の禅語へと遠回りすることによって、視界が大きく開けた。 本研究課題は前年度申請によるもので、前課題の成果報告書として「伝・賛と肖像の文学史」を予定していた。コロナ禍、国際的に各国に散らばる研究協力者の研究課題への理解と協力に助けられ、Zoomでの研究会を何度も開催し、「伝・賛と肖像」という観点を切り口として、各自の研究課題を再検討していただいた。各研究課題と成果報告から学ぶ点が多く、国際シンポジウムから成果報告書の完成にいたるまで、研究協力者にも御苦労をおかけしたが、そのプロセス自体がきわめて有意義であり、大きな成果をあげ、次の課題をみいだすことができた。 11月「東西文化の融合」国際シンポジウム「日本文学と日本語教育が出逢うとき」、3月水門の会国際シンポジウム「日本文学と日本語教育が出逢うときⅡ」の開催によって、海外で日本文学の翻訳を手がける研究者、宮澤賢治研究者の御指導、協力をいただくことができるようになった。カンボジア人国費留学生による「原文による宮澤賢治多読ライブラリー」のカンボジアでの公刊計画が具体化し、『やまなし』『オツベルと象』『虔十公園林』『雪渡り』のクメール語訳のために、宮澤賢治の原文にさかのぼって本文研究を進めている。今後は、さらに注釈研究をふまえたクメール語訳と日本人の朗読による教材開発をめざす。
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今後の研究の推進方策 |
上代文学研究としては、①【序】【銘】の問題をより煮詰めていくとともに、鑑真伝三部作のうち、集成僧伝である『延暦僧録』と、ほぼ同時代に成立した説話集『日本霊異記』の「伝」「賛」を相対化していきたい。②後藤昭雄氏が指摘された「平安朝の讃の文学」について、特に、空海の文章と空海将来の「真言祖師像」を検討し、上代から中古への展開の具体相について検討を加える。 ③第三の鑑真伝『延暦僧録』「聖武天皇菩薩伝」にみえる帝皇の輪廻転生の論理について、『南総里見八犬伝』が「七仏通戒偈」「過去七仏」をはじめ、出典となる禅宗史伝を翻案する手法に多くの示唆をえた。引きつづき、その成果を上代の伝・賛と肖像に対する視点・方法論に還元していく方法をとる。『唐大和上東征伝』巻末詩群の共通する主題「戒」「禅」の意味を解明するために、『南総里見八犬伝』の「戒」の出典と翻案、「禅」については山東京伝蔵「質仏通戒偈」の筆者でもある一休禅師の「禅」の質を解明したい。 ④禅語の普及には、禅の説話が介在しており、さらにこれを継承する茶の湯や茶掛が大きな役割を果たしている。禅語録とその背後にある説話のみならず、茶道文献をとおして、禅語の背後に流れる禅の文化やその出典語の生成を視野にいれる。 「東西文化の融合」国際シンポジウム「日本文学と日本語教育が出逢うとき」、水門の会国際シンポジウム「同Ⅱ」の成果を踏まえて、翻訳論出典論研究会では、カンボジア人国費留学生による「原文による宮澤賢治多読ライブラリー」のカンボジアでの公刊をめざして、『やまなし』『オツベルと象』『虔十公園林』『雪渡り』のクメール語訳のために、宮澤賢治の原文にさかのぼって本文研究・注釈研究と朗読劇の録音を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
『水門―言葉と歴史―』刊行費が当初の予定よりも多かったため。
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