本研究の意義として次の2点を挙げることができる。(1)これまで対立的に捉えられてきた「政治」と「文学」とを、民友社・徳富蘇峰の言説を再検討することで、〈自然〉という思想のもとで総合的に検証できる点。蘇峰においては政治も文学も〈人間の自然human nature〉が発現するもので、それは湖処子・独歩らに継承された。(2)近代的「個人」に裏付けられた〈表現主体〉の自明性を相対化する可能性が〈自然〉にはあるという点。坪内逍遙・二葉亭四迷を起源とするリアリズム系統の表現に加え、個人を包摂する〈自然〉を基点とした民友社的な文学表現を併せて見ることで、日本近代文学の表現史はより豊かなものになるはずである。
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