研究課題/領域番号 |
20K00326
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
山田 和人 同志社大学, 研究開発推進機構, 名誉教授(嘱託研究員) (60191300)
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研究分担者 |
加藤 弓枝 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 准教授 (10413783)
三宅 宏幸 同志社大学, 文学部, 准教授 (90636086)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 古典教育 / 古典教材 / 和本 / くずし字 / 和本バンク |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、年2回の研究会(古典教材の未来を切り拓く!研究会、通称「コテキリの会」)を開催し、教育現場への和本無償貸出プロジェクト「和本バンク」を継続した。さらに直木賞作家(万城目学・角田光代・門井慶喜)による現代語訳を掲載した監修書籍『作家さんと日本の古典を読んでみた!』全3巻(ポプラ社)を刊行した。 通算7回目となるコテキリの会は、2023年9月10日(日)にZoomを用いた完全オンライン形式で実施した。当日は「このゆびとまれ!古典の未来を切り拓く仲間たち」のテーマのもと、第1部は基調講演、第2部は実践報告会を行った。第1部の基調講演には早稲田大学の菊野雅之氏を迎え、「学習指導要領の守破離――指導事項を視点とした古典学習」という題目のもと、学習指導要領を理解・分析・批評していくことで、古典学習を構築・議論していくための土台についてご講演いただいた。また、第2部の実践報告会「そうだ!古典、楽しもう」では、舟橋紀一氏・勝亦あき子氏・野澤俊介氏・粂汐里氏に、実践を報告いただいた。 さらに、8回目のコテキリの会は、2024年3月24日(日)に同志社大学とZoomを用いたハイブリッド形式で実施した。当日は「古典のオイシイいただき方――現代につなげるヒト・モノ・コト」のテーマのもと、第1部は実践報告会、第2部は座談会を行った。第1部の実践報告会「こんな手もあったのか! 古典教育の方法」では、足立翔治氏・大坪 舞氏・江口萌氏に各実践について報告いただいた。第2部の出版記念座談会「作家さんと読む古典文学」には、直木賞作家の門井慶喜氏のほか、大久保美希氏(ポプラ社編集者)・植木朝子氏(同志社大学学長)を迎え、こどもたちに伝えたくなる古典の魅力について考えた。いずれのコテキリの会も国内外から多数の申込があり、有意義な研究会となった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研の目的は、(1)子どもたちの古典への興味関心を喚起し、それを持続させることが可能な、くずし字や和本を用いた新しい教材を開発し、(2)国語のみならず他教科にも応用可能な実践方法を構築することで、(3)古典を現代の自分と結びつけられ、それを未来や世界へと繋げられる学習者の育成を目指すことにある。 新しい教材とは、学習者の知識を活用、かつ知的好奇心を刺激でき、授業内で完結しない生涯学習の実践にも繋がるような教材を意味する。また、本研究の方法は、(1)同志社大学内に国語教員と研究者によって構成される古典教材開発研究センターを立ち上げ、そこで教材性を問い直し、(2)くずし字や和本を用いた新しい古典教材を開発し、(3)誰もがアクセス可能な教材のプラットフォームをWEB上に構築して、(4)新指導要領にも適した学習者を新しい古典の魅力へ誘う出版物を刊行し、(5)協力校で実践授業を公開することでその活動を広げていくことである。このうち、(1)(2)(4)(5)については、当初予定していた以上に、進展させることができた。年2回開催している研究会(コテキリの会)は回を重ねるごとに参加者が増加しており、もっとも最近に開催した第8回研究会には今まででもっとも多くの方から、参加登録があった。また、延べ申込人数も1000名を超え、和本を教育現場へ無償で貸し出すプロジェクト「和本バンク」への申込も倍増した。また、2023年度の特記すべき業績としては、『作家さんと日本の古典を読んでみた!』(ポプラ社、全3巻)の刊行が挙げられる。本書は、古典教育や古典研究の専門家だけではなく、国内外を問わず活躍するクリエイターが見つけた古典の魅力を切り口に、古典の魅力をひろく伝えていくことができないかと考え監修したものである。結果、本研究の特色でもある、和本やくずし字もふんだんに取り込んだ、画期的な古典入門書となった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は最終年度となるが、持続可能性を意識した研究を行う予定である。和本・くずし字を用いた新しい古典教材は引き続き開発し、それを協力校で実践してしつつ、この取り組みを広げていくため、新たな切り口を模索したい。 例えばその一つに、アプリケーションソフトを活用した教育実践があげられる。一人一台のタブレット端末が配布され、古典教育に関してもそれらを活用できる教材が求められている。中等教育用ではないものの、くずし字や和本に関するアプリケーションは近年数多く開発された。しかしそれらを用いた古典教育プログラムの開発はこれからである。また、これまで作成してきたものは、複数を組み合わせて用いることができるモジュール教材ではあったが、実際にどのように組み合わせて体系化した教育を行うかまでは十分に考察できていない。そこで、開発した古典教材を用いて、いかなる教育がプログラムとして可能であるかについても追究する。 また、「和本バンク」の運営についても、持続可能性を意識した改善が必要となっている。現在は科研費により「無償」を担保しているが、本研究終了後も貸出を続けるためには、貸借の仕組みを改めて整える必要性がある。必要となる負担は送料だけではなく、和本の管理場所や防虫・補修など多岐にわたる。利用アンケートによれば、和本を用いた古典教育は、テクストでは得られない教育的効果があることが明らかとなった。しかし、その運用には多額ではないものの経費がかかる。その問題を解決するにはいかなる方策が考えられるか、検討することとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた、(1)同志社大学古典教材開発センターの立ち上げ、(2)くずし字や和本を用いた新しい古典教材の開発、(3)誰もがアクセス可能な教材プラットフォームの構築、(4)学習者を新しい古典の魅力へ誘う出版物の刊行、(5)協力校で実践授業を公開のうち、先述した通り、(1)(2)(4)(5)は予定以上の成果をあげられた。しかし、(3)の教材プラットフォームの構築には時間がかかることから、次年度使用が生じることとなった。 そのため、今年度は教材プラットフォームの構築にまずは研究費を用いる。さらに、研究会や和本バンクの運用を継続する必要があるため、年2回開催する研究会登壇者への謝金やオンライン運営支援費のほか、和本バンク運用のための送料や補修費にも使用する計画を立てている。
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