• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2021 年度 実施状況報告書

世阿弥後期の能楽論の新研究

研究課題

研究課題/領域番号 20K00328
研究機関京都芸術大学

研究代表者

重田 みち  京都芸術大学, 芸術学部, 非常勤講師 (40399069)

研究分担者 古勝 隆一  京都大学, 人文科学研究所, 教授 (40303903)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード世阿弥 / 能楽論 / 足利将軍家 / 儒教 / 禅 / 漢文化(ハン・カルチャー) / 芸道書 / 武家文化
研究実績の概要

前年度に引き続き、世阿弥後期(足利義持政権後半期・義教政権期)の能楽論に関して以下の(1)~(4)の新たな研究を行った。(1)将軍家権力や京都・南都等の社会文化状況との関連に注目した新研究を行う。(2)この時期の世阿弥に強まった芸の継承への意識が、後続する能楽及び諸芸に与えた影響を問う。(3)上記(1)(2)の考察を踏まえ、世阿弥能楽論の新しい校注・現代語訳を作成する。(4)当時の将軍家周辺に多大な影響を与えた東アジアの漢文化を視野に入れるべきであり、それに関する研究を行う((1)~(3)は代表者が行い、(4)は主に分担者、一部を代表者が行う)。
(1)は、世阿弥と儒教・禅、及び世阿弥の上層社会との関係等について考察を進めた。特に前年度に続き朱子学の世阿弥芸論への影響の大きさとその京都五山周辺の文化環境との関係や、儒教に由来する語「天下」の室町時代における概念を考察し、論考2本(著書分担執筆)を発表した。また、世阿弥後期に禅思想の影響により幽霊能作品が質的に変化したことを能楽論と関連づけて指摘考察し、口頭発表1本を行った。(2)は、世阿弥能楽論から室町後期能楽伝書への内容の影響・変化、及び、能楽と周辺ジャンルの芸道書の内容の類似・相違を、当時の武家社会の状況との関連に注目しつつ考察し、本年度に短文論考1本を発表し、次年度に論文1本の公開が確定している。
(3)前年度に続き、世阿弥能楽論『風姿花伝』『花鏡』等の校注・現代語訳の作成を進めた。またその重要概念や伝書の著述過程に関する論考の成果の次々年度刊行を目指して原稿の整理を進めた。
(4)本研究に関連する中国の思想・学術についての考察の成果を著書2冊・論文4本等として発表した。
また本研究に基づく社会的貢献として、世阿弥能楽論読解等の一般向け教養講座(代表者・分担者)、大学テキスト作成・FMラジオ番組解説(代表者)を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究計画を日常的に確認しつつ、初年度(昨年度)からの2年間の期間に見合った調査や考察を順調に行い、関連する共同研究に積極的に参加し学術交流を盛んに行ってきた。前年度に行った調査考察をスムーズに本年度に継続し、また昨年度の成果を活かしつつ本年度の研究を新たに展開している。全体の量・質としては当初の計画どおりに進展し、考察内容自体の着想や今後の研究の方向性に関して、当初の予想を超える新たな見通しを得た点もある。
これらの点から見れば、「(1)当初の計画以上に進展している」を選択することも可能であったが、あえて「(2)おおむね順調に進展している」を選んだのは、やむをえない事情として、前年度(初年度)以来の新型コロナウイルス感染症の影響を受けたからである。具体的には、感染拡大予防のため、当初予定していた本年度の国内出張・海外出張を断念したことが最も大きい(前年度以来国内出張は1回のみ、海外出張はすべてを控えた)。その代わりにその時間に可能な別の研究作業や、オンラインや近距離内での学術交流を行ってはいるが、資料調査や学術交流の出張による計画を含めた具体的な「当初の計画」というとおりの意味では、「(2)おおむね順調に進展している」となるため、昨年度に続き今回も(2)をあえて選んだ。
状況には臨機応変に、本研究に係る別の調査・論文執筆等、研究者が個人で可能な補完代替作業に努めている。また本研究に関連の深いオンラインや近距離内での共同研究等に、本研究代表者自ら代表を務めることも含め積極的に参加し、知見の共有や今後の研究展望の意見交換を盛んに行っている。数少ない来日海外研究者との学術交流の貴重な機会も活かしているが、次年度以降、感染症状況の好転を見て、本年度までに実施できなかった出張や国際的な学術交流も行い、全体として本研究の目的どおりの成果を上げることを期している。

今後の研究の推進方策

本年度に引き続き、世阿弥後期(足利義持政権後半期・義教政権期)の能楽論に関し、以下の(1)~(4)の新たな研究を行う((1)~(3)は代表者が行い、(4)は主に分担者、一部を代表者が行う)。
(1)世阿弥能楽論の、将軍家権力や京都・南都等の社会文化状況との関連に注目した新研究。その儒教思想の影響に関する本年度の成果を踏まえ、世阿弥の芸論における「天下」や猿楽観を新たに考察する。また前年度に引き続き世阿弥後期以降の幽霊能作品の質的変化について能楽論と関連づけて考察する。以上のテーマについては次年度に論文2-3本を執筆する。さらに、世阿弥の能楽論や能作品を「禅的」であると述べる近代の国際的思想家・啓蒙家の言説の是非を本研究の成果を踏まえ再検し、次年度国際学会にて発表し論文を執筆し(英語翻訳含む)、世阿弥に関する歴史的研究の国際的な知見の共有と水準向上を期する。
(2)世阿弥後期に強まった芸の継承への意識が、後続する能楽及び諸芸に与えた影響を問う。上記(1)近代の思想家・啓蒙家の言説に関する国際学会発表及び論文執筆は、世阿弥に後続する能楽や室町時代の周辺ジャンルの芸道書も対象とする予定であり、世阿弥からの影響という観点を含めてこれらの考察も併せて行う。
(3)上記(1)(2)を踏まえ、世阿弥能楽論の新しい校注・現代語訳を作成する。本年度は世阿弥の音曲論等を対象とする。またその前提となる『風姿花伝』著述過程及びその重要概念に関する研究書の次々年度刊行を目指し、本年度に引き続き原稿の整理を進める。
(4)足利将軍家周辺に多大な影響を与えた東アジアの漢文化を視野に入れるべきであり、それに関する研究を行う。世阿弥能楽論解釈に參照しうる中国思想・学術に関する諸考察を本年度に引き続き行い、複数の論文等を執筆する。その際、世阿弥能楽論に特に関連が深い中国の「道」等の概念史・思想史にも留意する。

次年度使用額が生じた理由

理由:(1)本年度全体を覆う新型コロナウイルス感染症の影響により、予定していた国内・海外出張による調査・学術交流全てを控え、別の代替補完作業(次年度以降予定の内容を含む)及びオンライン学術交流に代えたため、(2)本年度に予定していたPC購入を、現在の機器の状態から次年度前半期に行うことにしたため、である。
使用計画:(1)は感染状況の好転を見て、次年度以降に行う。(2)は次年度に購入する。

  • 研究成果

    (16件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) 図書 (7件)

  • [雑誌論文] 「室町文化横断研究の展望における宮増小鼓伝書の意味」2022

    • 著者名/発表者名
      重田みち
    • 雑誌名

      銕仙

      巻: 721 ページ: 3-4

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 「段玉裁『古文尚書撰異』序訳注(二)」(*DOIあり、ただし本報告書作成時未定)2022

    • 著者名/発表者名
      古勝隆一、田尻健太
    • 雑誌名

      『中国思想史研究』

      巻: 43 ページ: 175-205

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 「『文史通義』内篇四訳注」2021

    • 著者名/発表者名
      竹元規人、古勝隆一、福谷彬、陳佑眞、白須裕之、 渡邉大、藤井律之、重田みち、山口智弘、臧魯寧、 内山直樹、小島明子、成田健太郞、道坂昭廣、永田知之、王歡、王孫涵之
    • 雑誌名

      東方學報

      巻: 96 ページ: 117-269

    • DOI

      10.14989/269164

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 井上治「花道史における中国瓶花の位置の再検討」へのコメント2022

    • 著者名/発表者名
      重田みち(コメンテーター)
    • 学会等名
      「日本の伝統文化」を問い直す(京都大学人文科学研究所共同研究)
  • [学会発表] 太極殿と大極殿をめぐる幾つかの文学作品を読む2022

    • 著者名/発表者名
      古勝隆一
    • 学会等名
      「見えるもの」や「見えないもの」に関わる東アジアの文物や芸術についての学際的な研究(京都大学人文科学研究所共同研究)
  • [学会発表] 幽霊能における〈幻〉:金剛般若経・維摩経の思想と足利義持政権期における能の変質2021

    • 著者名/発表者名
      重田みち
    • 学会等名
      「見えるもの」や「見えないもの」に関わる東アジアの文物や芸術についての学際的な研究(京都大学人文科学研究所共同研究)
  • [学会発表] 『文史通義』「古文公式」篇譯注2021

    • 著者名/発表者名
      重田みち
    • 学会等名
      清代~近代における経学の断絶と連続:目録学の視角から(京都大学人文科学研究所共同研究)
  • [学会発表] 成田健太郎「日本書道史における中国風・日本風言説の諸相 ―平凡社『書道全集』を例として―」へのコメント2021

    • 著者名/発表者名
      重田みち(コメンテーター)
    • 学会等名
      「日本の伝統文化」を問い直す(京都大学人文科学研究所共同研究)
  • [学会発表] 「日本の伝統文化」を問い直す:前半の総括と今後の展望2021

    • 著者名/発表者名
      重田みち
    • 学会等名
      「日本の伝統文化」を問い直す(京都大学人文科学研究所共同研究)
  • [図書] 千葉一幹・西川貴子・松田浩・中丸貴史編『日本文学の見取り図』(「芸能」「『風姿花伝』」)2022

    • 著者名/発表者名
      重田みち
    • 総ページ数
      266(76-77,196-197)
    • 出版者
      ミネルヴァ書房
    • ISBN
      9784623092840
  • [図書] 伊東貴之編『東アジアの王権と秩序:思想・宗教・儀礼を中心として』(「日本の中世後期における「天下」の概念と王権:武家の実効支配と天皇の存在意義との関係」)2021

    • 著者名/発表者名
      重田みち
    • 総ページ数
      948(431-446)
    • 出版者
      汲古書院
    • ISBN
      9784762966965
  • [図書] 芳澤元編『室町文化の座標軸:遣明船時代の列島と文事』(「世阿弥の能楽論における朱子学の影響:『大学』『中庸』の引用及び世阿弥の心身論・抽象論の形成」2021

    • 著者名/発表者名
      重田みち
    • 総ページ数
      448(258-284)
    • 出版者
      勉誠出版
    • ISBN
      9784585320111
  • [図書] 『漢唐注疏写本研究』2021

    • 著者名/発表者名
      古勝隆一
    • 総ページ数
      238
    • 出版者
      社会科学文献出版社
    • ISBN
      9784831877529
  • [図書] 『中国中古の学術と社会』2021

    • 著者名/発表者名
      古勝隆一
    • 総ページ数
      406
    • 出版者
      法藏館
    • ISBN
      9787520156486
  • [図書] 伊東貴之編『東アジアの王権と秩序:思想・宗教・儀礼を中心として』(「隋朝における一切経書写の意義:「宝台経蔵」をめぐって」)(2021

    • 著者名/発表者名
      古勝隆一
    • 総ページ数
      239-251
    • 出版者
      汲古書院
    • ISBN
      9784762966965
  • [図書] 冨谷至編『岩波講座 世界歴史:中華世界の盛衰 四世紀』第5巻(「礼体系の継承と変容:性差の観点から」)2021

    • 著者名/発表者名
      古勝隆一
    • 総ページ数
      290(229-248)
    • 出版者
      岩波書店

URL: 

公開日: 2022-12-28  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi