研究実績の概要 |
本研究課題は日・中・韓三カ国の古代文化交流の様相を解明し東アジア文化交流の理解に貢献することを最大の目的とするものであり、文学・文化・考古学の融合的研究を推進している。研究代表者廣川晶輝は従来指摘されていない日中文化交流の道筋を解明し、廣川晶輝「山上憶良作漢文中の「再見」小考」(『甲南大学紀要 文学編 日本語日本文学特集』,148号,2007年3月)という結実を見た。本研究課題でもその成果を基盤として山上憶良の一大漢文作品「沈痾自哀文」(『万葉集』巻5)の表現分析を掲げている。2023年度の研究成果として、その「沈痾自哀文」の表現を分析した、廣川晶輝「山上憶良「沈痾自哀文」について―冒頭の「竊以」の表現分析を中心に―」(『甲南大學紀要 文学編』THE JOURNAL OF KONAN UNIVERSITY Faculty of Letters,174号,2024年3月,1~22頁)の公表がある。同論考の概要は以下の〔〕内のとおり。〔「沈痾自哀文」冒頭の表現「竊以」が『文選』李善注上表文にあることを日本上代の官人達は知っていたが、実際の用例は多くはない。『万葉集』における用例は憶良の二例のみである。漢土における「竊以」は、漢籍・仏教関係書籍の区別を問わず広く行き渡っている。ひとつに梁簡文帝「三月三日曲水詩序」等に見られる知識人達の筆法がある。ひとつに仏教関係書籍の用例がある。その裾野はきわめて広い。ある一部の種類の漢籍や仏教関係書籍に偏るのではない、という広がりの様相を看取できる。山上憶良の「竊以」使用には、中国(・韓国)における広がりとの親和性がある。日本の状況との〈断絶〉、中国(・韓国)との〈地続き〉の様相を見出せる。この視座は、中国・韓国・日本における文化の伝播と定着の状況を研究する比較文化研究にも資する。〕という概要である。まさに、本研究課題の体現となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者廣川晶輝はすでに、「山上憶良作漢文中の「再見」小考」(『甲南大学紀要 文学編 日本語日本文学特集』,148号,2007年3月)の公表をとおして、中国金石文の表現が日本上代文学の表現に与えた影響を解明し、日中文化交流の従来指摘されてこなかった道筋を明らかにし得ている。その研究の発展形として本研究課題においても、山上憶良の長大な漢文作品「沈痾自哀文」(『万葉集』巻5)の表現分析を掲げている。 本研究課題における2020年度~2022年度をかけて、この長大な漢文作品「沈痾自哀文」の本文校訂作業を綿密かつ正確に実施することができた。そして、その本文校訂作業における研究成果を、2023年度、廣川晶輝「山上憶良「沈痾自哀文」について―冒頭の「竊以」の表現分析を中心に―」(『甲南大學紀要 文学編』THE JOURNAL OF KONAN UNIVERSITY Faculty of Letters,174号,2024年3月,1~22頁)にまとめる進捗を見た。 また、2023年度には、廣川晶輝「笠金村「天平元年冬十二月相聞長歌作品」について」(『日本文学』(日本文学協会),72巻8号,2023年8月)を公表することができた。この論考は、作品世界の〈地点〉〈視座〉が効果的に提示されることで見えているのに逢えない恋情を歌い得る表現が達成されていることを論じた論考であり、本研究課題における研究手法からの派生・発展形の論考である。本研究課題の「研究計画調書」では、幹線道・航路とその近くに築造された墓・古墳との位置関係を、吉本昌弘氏「摂津国八部・菟原両郡の古代山陽道と条里制」(『人文地理』33巻4号、1981年8月)等の考古学的知見を生かして解明した。つまり、どこから墓を見て歌うのかについてを分析したわけである。その研究成果が、〈地点・視座〉分析という新たな研究の方向を醸成する進捗を見た。
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