研究課題
2020年度の研究計画は大幅な変更を余儀なくされた。最大の理由は新型コロナウイルスの世界的流行である。大きな目的であったブラジル渡航調査が日伯両国のコロナウイルス流行拡大により不可能となるとともに、緊急事態宣言によって東京等の国内調査も難しい状況となった。かかる状況下で可能なこととして国内における書籍の収集と分析を行った。ブラジルで刊行された書籍・雑誌等をまとめて所蔵している図書館が国会図書館憲政資料室や海外移住と文化の交流センター(神戸市)などに限られる中、古書店の目録等を活用し、それらを読むことに力を注いだ。とくにブラジルで刊行されていた文芸同人誌『コロニア詩文学』を十数冊購入できたことから、継続してその足跡を追っている日系歌人・作家に関する事績を調べることができた。その資料などを活用した結果として論文「西田季子『歌集やまばと』をめぐる旅ーブラジル移民における「百万石のふるさと」」を書き上げ、広岡守穂編『社会のなかの文学』(2021.1、中央大学出版部)に収録することができた。勤務地である石川県金沢市にゆかりの深い優れた歌人の足跡を広く世に紹介できたこと、それを通して日本語からポルトガル語へ移行しつつある日系文学の汽水域における先駆的な歌集として『歌集やまばと』を定位できたことは、研究の今後に向けて大きな収穫であったと考えている。遺族や現地日本人会での聞き取りや現地施設での調査など、現地調査ができればさらに内実の厚い研究となったはずであるが、渡航ができる状況になったときの課題として残さざるを得ない。また、この研究を通して帰国された元ブラジル移民で、やはり歌人であった方のご遺族と交流を結ぶことができた。このコネクションを通して、まだ渡航のできない状況ながらも国内において研究を進展させる手がかりを得つつある。
3: やや遅れている
新型コロナウイルスの世界的流行によって渡航調査の可能性が閉ざされたことは想定外の事態であり、自ら期待した成果を得ることはできなかった。しかしながら、そのような状況の中で方針を切り替え、国内資料を購入・分析することで論文1を公刊できたことは【研究実績の概要】に記したとおりである。その点を加味して「(3)やや遅れている。」に相当するものと判断した。
ブラジル渡航調査はしばらく難しいものと考えられる。ブラジルではワクチン接種が急速に進んでいるが2億人を擁する大国であり、まだ猛威は収まっていない。日本の状況を考慮に入れると渡航は早くても2022年1月以降になるものと考えている。渡航解禁の際には状況を見て渡航調査を行うつもりで準備をする。なお、インターネットや国内所蔵機関の活用、科研費を用いた資料の購入を通して一定程度の調査資料を購入可能であり、その分析を進めることもまた可能である。したがって、研究上の優先順位を入れ替え、国内でできる研究内容を優先して取り組むことで、研究期間全体を通して目標とする成果を出すことが肝要であると考えられる。2021年度については2020年度の研究実績において見出した次の課題に対して考察を深め、解答を得ることを目標としている。それは『サンデー毎日』等、国内の雑誌・新聞等のメディアにおいてブラジル移民がどのように語られ、移民事業が遂行されたか、そして文芸はどのような役割を有したかを考察する予定である。このようにして国内でできることを勧めつつ、渡航調査の準備を進めたい。
新型コロナウイルスの世界的流行によりブラジルへの渡航調査ができなくなったためである。国内で購入できる資料の収集や整理等に資する物品購入を予定より多くし対応したが、上記の通りの次年度使用額が生じた。ブラジル渡航調査は2022年1月以降になると予想されるが、その際には長期的な調査を行う予定であり、その際にこの次年度使用額を加えた執行を計画している。
すべて 2021
すべて 図書 (1件)