研究最終年度にあたる2022年度は、2021年度までの成果に基づき、東本願寺を近世京都の文学・文化史に位置づけることを目標とした。江戸時代の東本願寺に関わる文学活動の特色を把握するため、「嵯峨本願寺資料」のうち、『渉成園十三詠詩』『源氏物語』などの調査を実施した。調査機関は宗教法人本願寺(京都市右京区)で、2022年6月1日、同7月8日、同10月19日、2023年3月17日におこなった。東本願寺門跡はとくに公家の近衞家との関わりが深いことから、研究会を主宰し、公家の和歌と漢学に関する研究を進めた。研究会は、2022年5月26日、同6月23日、同7月14日、同8月10日、同9月15日に開催した。開催場所は立命館大学衣笠キャンパス(京都市北区)でZOOMを併用し、海外の研究者も参加した。成果として、川崎佐知子(単著)「立命館大学図書館蔵『三十番歌合』をめぐって」(『論究日本文学』第117号 2022年12月)、「近衞家の漢学」研究会(研究代表、川崎佐知子)(共著)「『桂芳集』抄譯註稿」(『立命館白川静記念東洋文字文化研究所紀要』第16号 2023年3月)を公表した。 研究期間全体を通じて、「嵯峨本願寺資料」計435点の書目と内容のおおよそを把握し、調査研究の土台を作った。そのうえで、個々に留意すべき主要な複数の資料にあたり、東本願寺を中心に展開された文学的営為の様相を捉えた。これまで、本山創成時の特別な事情によって、東本願寺といえば、江戸幕府との関係だけが注目される傾向にあった。しかしながら、本研究課題の遂行を通じて、東本願寺の文学活動の根幹に、京都の公家社会からの影響のあることがたしかに認められた。その証跡が、まさしく「嵯峨本願寺資料」だったのであると結論する。
|