研究課題/領域番号 |
20K00360
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
小林 健二 国文学研究資料館, その他部局等, 名誉教授 (70141992)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 能絵 / 狂言絵 / 絵巻 / 絵図 / 粉本 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、①江戸前・中期に作られた能絵や狂言絵の作例を渉猟して整理のうえ、図像の分析と比較検討を行い、粉本が形成された流れを追うことにあり、②その粉本の形成に土佐派や狩野派のやまと絵の絵師の関与があったことを解明することである。また、これまであまり手が付けられてこなかった、③江戸中期の能役者でありながら能狂言絵の絵師として知られる福王雪岑の作画活動を明らかにし、④絵俳書の挿絵師として文芸史にも位置づけられることを考察することにある。 令和2年度は、新型コロナウィルスの蔓延によって、海外への渡航が不可能になったことにより、本研究において最も大きく位置づけていたアメリカ合衆国のボストンにあるハーバード美術館の土佐光起筆の資料調査と撮影が出来なくなってしまったので、①②に関してははかばかしい進展はなく、広島県廿日市市の海の見える杜美術館に所蔵される『能狂言絵巻』の調査が行えただけであった。 しかし、③④については秋田県立図書館に所蔵される福王雪岑が挿絵を担当した『倉の衆』という資料についての考察がまとまり、『藝能史研究』232号(令和3年1月20日)に「福王雪岑の画業とその研究課題」として掲載することができた。これは、零本であるがこれまで能楽研究者に知られていなかった新出の資料であり、能楽研究はもとより、俳諧や美術史と共同で研究することによって、新しい文化現象の究明が期待出来ることを示唆したと自負している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度は、新型コロナウィルスの蔓延により、海外渡航が不可能となったことによって、本研究において最も大きく位置づけていたアメリカ合衆国のハーバード美術館に所蔵される土佐光起筆の能絵資料150図の調査と撮影が実施困難となり、また、本研究に関連する資料を所蔵する国立能楽堂や徳川美術館などの機関も閉館となったり担当者がリモートワークのために不在であったりと能絵・狂言絵の資料調査を行うにはきわめて困難な状況となり、予定していたほとんどの調査は実施出来なかった。調査出来たのは広島県廿日市市の海の見える杜美術館における「能狂言絵巻」の調査だけであり、目的の①②についてはほとんど進めることが出来なかったと言えよう。 しかし、福王雪岑の能狂言絵の作画と俳書の挿絵師としての活動については、秋田県立図書館蔵の『倉の衆』に関する考察がまとまり、『藝能史研究』232号(2021年1月20日)に「福王雪岑の画業とその研究課題」として掲載することができた。 また、非常事態宣言の発出などで身動きできないこの間は、収集済みの資料の比較検討を行い、今後の資料調査の実施に備えた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は国内外の能狂言絵を博捜し、落款を有する作例を軸として制作実態の流れをつかむため、数多く存する能狂言絵の作例を可能な限り博捜して、詳細な書誌調査と撮影を行い、曲ごとの画像データを集成しなければならない。ところが、新型コロナウィルスの感染に対する緊急事態宣言が発出されている状態では、調査出張がほとんど望めない。年度後半になってワクチンの接種が広がり、感染者数が減って海外への渡航が許されるようになったら、国内外の出張が徐々に出来るようになり、調査と画像の入手を進めることができるよう。以下のように進めて行く予定である。 能絵については、令和4年2月にボストンのハーバード美術館を訪れて土佐光起筆能絵の調査を行い、平行してニューヨークのバーンスタイン・コレクション蔵『能狂言絵巻』の調査を行う。両方とも国内未紹介の資料であり、本研究において重要な資料である。また、松岡美術館は所蔵作品の修復調査や設備点検のため2019年6月2日から休館していたが、本年10月から開館する予定なので所蔵される狩野春笑筆『養老勅使図』屏風六曲一双の調査を行い、国会図書館蔵の狩野春笑筆『能楽図巻』に載る《養老》図との比較検討を行いたい。合わせて国立能楽堂蔵の狩野柳雪筆『能之図』絵巻など狩野派資料の調査も進めて行く。 狂言絵は、最も図数の多い徳川美術館蔵の『山脇流』とそれに次ぐ個人蔵の『古狂言後素帖』の調査を行い、国文学研究資料館の『狂言絵』も含めて比較検討を行う。 また、「能狂言絵巻」には詞章の一部を伴う例があるので、それらを集成して翻刻し、詞章のうえで繋がりがあるかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費については、新型コロナウィルスの蔓延により、アメリカ合衆国のボストンのハーバード美術館とニューヨークの個人コレクションの調査のためアメリカ合衆国へ渡航出来なかったのが大きい。アメリカには美術史の研究者を研究協力者として同行する予定であったし、場合によっては複数回の渡航も考えていたので大きな残額が生じてしまった。また、国内における調査出張もコロナウィルスの蔓延で非常事態宣言が発出されたために、調査対象機関が閉まっていたり、学芸員や司書がリモートワークとなり、調査を実施出来なかったため、旅費が発生しなかったことも一因である。 その他は、調査箇所の資料を撮影したものをプリントしたり、既製の画像を入手するために計上した費用であるが、アメリカのハーバードの資料や、国内の徳川美術館などの資料の画像を入手することが出来なかったため、そのまま残ってしまったものである。 事態が好転したら、これらは計画通り実施できる予定である。
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