研究課題/領域番号 |
20K00364
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
杉村 安幾子 日本女子大学, 文学部, 教授 (50334793)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 戦争 / 美女表象 / 通俗小説 |
研究実績の概要 |
本研究は、中国現代文学において通俗小説の女性主人公がほぼ必ず「美女」であり、その美女がほぼ決まって悲劇的運命を担わされている点に着目し、1940年代の「現代通俗小説」の二代作家である徐クと無名氏の作品分析を通して、美女表象、民衆と戦争・政治の問題を分析・考察することに主眼を置くものであるが、本年度本研究では1944年に刊行された無名氏の中篇小説『塔裡的女人』と徐クの長篇小説『風蕭蕭』について論じた。 前者「無名氏『塔裡的女人』――逆照射される男性性失墜の物語」においては、絶世の美女と形容されたヒロインが、男性主人公の一見すると思いやりと気遣いに見える差配により失恋し、結果として不幸な境遇に陥るものの、それが逆説的には男性主人公の意識せざる強い家父長的封建性を照らし出した点を指摘した。 後者「「美貌」というスティグマ――徐ク『風蕭蕭』における美女表象」においては、上海における美女諜報員たちが命をも賭して諜報活動をする様が描かれており、その中で彼女たちが自らの「美貌」が武器であることを自覚し、かつまた「美しく若いうちにしか価値はない」ことを自認して命を投げ出していることについて考察した。ここにはルッキズムとエイジズムを指摘できるが、美女諜報員たちの美と若さはまた同時に死が約束された徴でもある点を明らかにした。 また、本研究のテーマに直接的に関わるものではないが、徐ク・無名氏と同時代に活躍した作家銭鍾書の青年期の言動の中に、女性への蔑視とも呼べる眼差しがあることを論じた研究論文「銭鍾書と呉ヒツ」も執筆し、間接的に当該時代が共有していた空気を論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である2020年度は、資料収集と対象作品の精読に注力する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響で国内外の移動に制約があり、中国出張がかなわなかった。そのため、資料収集の面では中国における専門書・関連書籍の充実には努められなかった。その一方で、作品精読には時間を割くことができ、論文執筆・論文集刊行につなげることができた。研究状況はおおむね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、抗日宣伝活動に携わっていた無名氏の重慶における活動を追い、その活動内容が彼の創作活動にどのように関わっていたのかを分析する。 また、徐クが創作初期に著した多くの短篇小説の精読・分析を通じ、徐クの作品の女性主人公に課せられた悲劇的運命について考察し、「中国現代通俗小説の公理」と呼び得るものを導き出すことを目指す。それを仮説として、同時期他作家の作品をも読み込んでいきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は、新型コロナウイルス感染症の影響で、資料収集のための中国渡航や学会・研究会出張がかなわなかっため生じたものである。 次年度はこれを含めて、資料収集や学会・研究会の出張を実行したいと考えているが、新型コロナウイルスの感染状況次第では、関連書籍の購入に使用することも考慮に入れている。
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