研究課題/領域番号 |
20K00365
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
伊藤 加奈子 信州大学, 学術研究院人文科学系, 准教授 (80293489)
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研究分担者 |
井上 正夫 松山大学, 経済学部, 教授 (10633274)
氏岡 真士 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (60303484)
閻 小妹 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 特任教授 (70213585)
佐立 治人 関西大学, 法学部, 教授 (70340643)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中国文学 / 中国法制史 / 中国経済史 / 日本文学 / 中国語学 |
研究実績の概要 |
当該年度は国立国会図書館・古典籍資料室が所蔵している『杜騙新書』抄本の調査を中心に活動を行った。国会図書館に出向いての現物調査は伊藤加奈子が担当し、それについての詳細な分析報告は氏岡真士・閻小妹共著「『杜騙新書』の国立国会図書館蔵抄本について」『信州大学総合人間科学研究』第15号(pp.146-171, 2021年3月)にて発表済みである。以下にその報告内容を簡潔に記す。 『杜騙新書』は本来全四巻の構成であるが、国会図書館蔵抄本では上中下の3冊に改編され、各冊冒頭には「善庵暴(「曝」の異体字)書」の蔵書印が捺されており、この国会図書館蔵抄本は江戸後期の儒学者・朝川善庵(1781-1849)の旧蔵書であることが判明した。 国会図書館蔵抄本は半葉10行20字で、第1葉a面から始まる形式をとっており、『杜騙新書』明刊本が半葉9行20字で、第1葉b面から始まっているのとはやや異なる。書写をした人物がその作業時に書き漏らした字を本文傍注として補筆している形跡が確認できる。 書写された本文には返り点や訓読が朱書され、更には藍書による注釈、また墨書による返り点に傍注・頭注も加えられている。朱書がこれらの中では古く、それに藍書や墨書が情報追加や修正を意図する形で加筆されているという関係性が認められ、ここから異なる時期に異なる人物による加筆が行われていることが判る。墨書による頭注の中には「鉛汞(曰ク~)」で始まるものがあり、朱書藍書墨書といった書き込み群の中では遅い時期に属すると考えられる。蔵書印について先述した朝川善庵であるが、彼の名は鼎、字は五鼎である。「鼎」と「鉛汞」は錬丹術の縁語であり、おそらく「鉛汞」で始まる墨書の頭注は、当抄本が国会図書館に所蔵される以前の所有者・朝川善庵の手によるものと推察される。この度の調査に基づき、和刻本に関する従来の記述には再考が必要であると判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス流行の影響により国内移動また海外渡航が制限される状況が継続しており、例えば当該年度実施した国立国会図書館古典籍資料室の調査についても、その利用時間等の制限によりスケジュール調整に難儀した側面があった。ただそのような状況下においても一定の調査活動はでき、当該年度の成果として2015年科研費プロジェクト「『杜騙新書』の基礎的研究」における和刻本に関する記述に見直すべき点を発見するに至った。 当初は海外諸施設が所蔵する『杜騙新書』の各種版本についての調査も視野に入れていたが、海外渡航が難しいコロナ禍の現状においては、やはり国内施設所蔵のものに調査対象を改めて絞りこむのが現実的であると考える。そのことから、江戸時代日本にもたらされた『杜騙新書』が当時の儒学者や錬丹学者たちがの間でどのような理解がなされていたのか、各種国内資料を比較対照して調査を行うことで、新たな情報を見出せるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これからの作業としては、京都大学付属図書館所蔵の『杜騙新書』一卷(文政元年 皇都書林五車樓菱屋孫兵衞 刊本;印記「長嶋町五丁目/大野屋惣八」)と、京都大学人文科学研究所(東方文化研究所)所蔵の『杜騙新書』一卷(五瀨アサ[日一黽]貞 訓譯;文政元年 皇都書林菱屋孫兵衞 刊本)、これらについて詳細な調査を進める予定である。 手順として、先ずは両版本のデジタル複写資料の作成を行う。それからそれらの書誌情報を整理し、本文についての頭注傍注といった付帯情報がどのように成立したか、その過程を詳細に検討する。そこから得られた情報を基に、2015年科研費プロジェクト「『杜騙新書』の基礎的研究」により刊行済みである『『杜騙新書』訳注稿初編』に記述した内容を精査し、必要に応じて修正を進める予定である。 海外資料の入手とその調査は難しい状況であるため、国内諸機関所蔵の資料を調査対象として絞りこむため、江戸時代の日本における『杜騙新書』の受容とその理解に関する検討を進めるのが今後の推進方策である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ流行の影響で海外諸機関へ出向き調査することが困難な状況になったため、旅費は国内のみの利用に限られた。この状況は令和3年度以降も継続すると思われるため、国内諸機関の調査とデジタル複写等を用いた資料の充実に注力する予定である。
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