訳注の執筆・編集作業を行い、明治書院より『王維・孟浩然』(共著。孟浩然を担当)、研文出版より『韓愈詩訳注第三冊』(共編)を刊行した。韓愈詩に見える諧謔について、特に他者を戯画化した作品に焦点を当てて研究を進めた。自己を戯画化するのは陶淵明や杜甫にも見られるが、韓愈は自己の戯画化に加えて、他者の戯画化も積極的に行うところに特色があり、いびき、論戦、神とのやりとりを戯画化した作品を分析した。幼子を亡くした孟郊を慰める「孟東野 子を失う」詩は、従来天人相関説に関わる思想面が注目されていたが、天の主張から感じられるおかしみといった文学の観点から読み解き、韓愈は天の戯画化による諧謔を意図してこの詩を作り、絶望に沈む孟郊をユーモアによって慰撫しようとした可能性について論じた。また、韓愈の詩中に見える交遊関係について、官界(裴度等)、韓門弟子(孟郊・張籍等)、同僚(柳劉元白等)、仏僧に系統分けして整理・分析を行った。 前年度にシンポジウム「安史の乱に杜甫は何をもたらしたのか」にて口頭発表を行い、安史の乱以降に杜甫の編年意識が高まっていくことを『宋本杜工部集』の自注と配列を足がかりに考察を行った。また、安史の乱から成都滞在期に至るまでの杜甫の家族へのまざなしを分析し、苦境や絶望の中で家族が果たした役割について考察を行った。そうした杜甫の文学が中唐に与えた影響について元ジンに焦点を当て、杜甫の文学のスケールの大きさを評価する元ジンが自身の文学にどのように反映させたのか学会で口頭発表を行った。
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