研究課題/領域番号 |
20K00367
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
鈴木 達明 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (90456814)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 韓愈 / 古文運動 / 天人相関 / 荘子 / 不平則鳴 / 天説 |
研究実績の概要 |
本年度は、韓愈の天人観についての前年度までの研究成果のとりまとめと発表を行った。その成果が「韓愈の天人観について――天人好悪相異の説」である。この論文では、韓愈の天人観について、有神論や天人相関説などの伝統的な立場を保持しつつも、不遇の責任を天に帰すことで人の責任を回避するという目的のもとで、天を人間とは異なる好悪を持ち得るものとして捉えるという特異性を持つことを指摘し、それを「天人好悪相異の説」と名づけた。この見方により、いくつかの詩文や『論語筆解』に見える特異な天の形象について整合的な説明が可能となった。また従来議論のあった柳宗元の「天説」に見られる韓愈の所説の位置づけについても、韓愈の天人観が含む矛盾を批判的に示すために柳宗元が創作した可能性が高いと考えられることがわかった。この「好悪相異」の天人観は、「今」と対立する価値概念としての「古」の捉え直しと類似して、自身や友の不遇の中で、自己の正しさへの確信を守るため、「人」と対置される価値概念として「天」を新たに捉え直した結果として生まれたと考えられる。 続いて、以上の天人観についての研究を踏まえて、韓愈の文学観の独自性について考察を進めた。途中段階ではあるが、現時点での見通しとして口頭発表したのが、「韓愈「孟東野を送る序」の「鳴」について」である。韓愈の「孟東野を送る序」は、「不平則鳴」というキーワードで、均衡を失った状態こそがすぐれた文学を生むという「不平の文学論」を説く文章として著名である。今回の発表では、「不平則鳴」の「鳴」の方に注目し、文学の動機に「天によって動かされる」という受動性を見ることが本文の主眼であることを指摘した。更に「鳴」の用法の特殊性を分析し、それがレトリックとして『荘子』を参照した可能性が高いこと、さらに主張の内容においても思想的影響が見られることを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までの進行状況を踏まえて、課題の期間を一年間延長した。進行の遅れの原因の多くは課題初年度(20年度)の新型コロナ感染症の流行によるものであるが、二年度以降の進行は順調であるため、一年間延長したことを踏まえてこのように評価する。
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今後の研究の推進方策 |
22年度の口頭発表を踏まえて、韓愈の天人観がその文学論に与えた影響について、また韓愈の『荘子』受容の影響について論文として発表する。更に、そこに見られる「受動性の文学論」について、同時代の文学者との関わりなどを通して掘り下げ、それを踏まえて載道の文学論との関係や、宋代の文学者や文学論への影響について考察を進め、発表したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度からの繰り越し金があり、全て使用するには到らなかった。 次年度は延長した期間であるため、これまでの未使用額分のみの使用となり、それについては書籍等購入費・学会参加費により使用できる見通しである。
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