研究課題/領域番号 |
20K00374
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
平石 淑子 日本女子大学, 文学部, 研究員 (90307132)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 植民地化以前 / 文化の連続性 / 文化の断絶 / 漢詩・漢文をベースにした文化交流 |
研究実績の概要 |
本研究は、文化が人々の精神活動の自然な発露であるという前提に立ち、その活動が政治的、或いは社会的な外圧によって如何なる影響を受けるのか、という大きな問いに対する答えを探求する過程に位置している。外圧の下に改変され全く新たなものとして生まれ変わるのか。それは生き残るための方便に過ぎないのか、それとも改変がそのまま新たな文化として継承されていくのか。あるいは外圧に抗して生き続け、人々の抵抗の原動力となり得るのか。本研究は「満洲国」成立という歴史的、政治的な「事件」を切り取り考察しようとするが、それは一つの身近な例を取り上げたに過ぎず、最近の世界における各種の深刻な問題――ロシアのウクライナ侵攻、香港の民主化運動弾圧、スーダンやカンボジアの内戦などを見据え、そのような外圧に対して文化がどのような役割を果たせるのかという関心に繋がるものでもある。 初年度に掲げた当面の具体的目標は以下の三点であった。(1)清末民初の東北史、東北文学に関する資料の収集及び整理、(2)清末民初の東北に於いて文化活動に携わった人物に関する資料の収集及び整理、(3)清末民初の東北で創作された文学・芸術作品の調査及び収集。以上の作業はいずれも中国現地で行う調査を期待して計画されたものであったが、残念ながら研究の開始から今日まで、世界的なコロナ渦の影響を受け、特に中国は現在でも出入国に厳しい制限を設けており、現地調査のめどは立っていない。今年度中の状況の好転を期してはいるが、見通しが全く明るくない中で、前年度の報告にも記したように、日本に残された資料を中心に、日本の明治・大正期(中国の清末民初期)から「満洲国」に至る日中交流の様を観察することを当面の新たな目標として掲げ、後に述べるように「満洲国」研究に新たな視座を提供することを目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上に述べたように、本課題研究開始当初から世界的コロナ渦の影響を受け、当初計画していた海外に於ける調査研究が全く実行できないという困難に遭遇した。残念ながらその情況は現在に於いても好転してはいないが、この情況を却って新たな研究活動の転機と捉え、案外見過ごされていた日本国内の資料を使用し、日本と中国の文化交流の有様を明治・大正期に遡り、「満洲国」に於ける文化の様相、或いはその変化を、日本の側から考察することに切り替えた。 本来は中国への出入国が可能となるまでの措置ではあったが、残念ながら状況は好転しておらず、むしろこの三年間の活動で積み上げた成果が少しずつ実を結びつつある。当初の予定とは異なるが、コロナ渦が新たな視点を与えてくれたことを前向きに捉えている。
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今後の研究の推進方策 |
何度も述べたように、中国本土に於ける調査に関しては全くめどが立たない状況であるが、その困難の中から予期せぬ新たな視点と方向性が生まれつつある。希望として本年度中の中国本土に於ける調査を念頭には置きながら、以下の研究に関し、引き続き進めていく予定である。 (1)日本の明治・大正期(中国の清末民初期)における日本人と中国人の文化を媒介とした交流の実態と、その後世への影響が如何なるものであったか。明治・大正期に於ける日中文化交流は、「アジアの危機」という共通認識の下に、それなりの緊張感はあったものの友好的に行われていたように見える。それが「満洲国」成立という事態に至るためには、どのような過程、紆余曲折があったのかを文化活動の方面から考察する。 (2)『清代東北流人詩文集成』に収められた作品を吟味し、清代の東北にどのような文化的素地が存在していたのかを考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的コロナ渦の影響により、国内外に於ける現地調査が厳しく制限された事による。特に海外渡航が緩和された現在に於いても、中国本土への入国に関しては今だ厳しい制限があることを考慮し、状況の好転を期待して一部を現地調査費用とした上で、日本国内に於ける調査費用を主たる支出として予定している。 またPC周辺機器の整備費(キーボード、プリンタインクなど)としても若干の支出を予定している。
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