研究課題/領域番号 |
20K00374
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
平石 淑子 日本女子大学, 文学部, 研究員 (90307132)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 植民地化以前 / 文化の連続性 / 文化の断絶 / 漢詩・漢文をベースにした文化交流 / 植民地に於ける教育 |
研究実績の概要 |
「満洲国」成立による政治的分岐点が文化的分岐点にもなり得るのか、と言う問いが本研究の基盤にある。そのために「満洲国」成立以前の中国東北地方に於ける文化活動の様相を知るというのが、本研究の当初の目的であった。しかし、世界的なコロナ禍、及びその後の日中関係の緊張の下で、中国現地に於ける調査・研究活動が出来ない状況が現在もなお続いている。そのため、研究方法について多少の方向転換を図らざるを得なくなった。そこで基盤的な問いは維持しつつ、清末民初の中国、あるいは「満洲国」成立前後の当地の状況について、日本国内に残されている資料を使いながら考察し、現状の好転を待つこととした。当該年度の主要な研究実績は以下の通りである。 2023年度上梓した『東アジア・知識人・ネットワーク』収録の拙論「孫点の清国公使館時代」は、明治20年代初期の日清知識人の漢文による文化交流に焦点を当てることで、日清戦争直前の日本の知識人たちの中国(清)に対する意識の変化を観察することができた。孫点「夢梅華日記」を俎上に挙げた考察は、管見の限り他にはない。また本書の編集活動を通じ、19世紀から20世紀にかけての日中韓露の関係、またその後、日本の知識界の関心が急速に中国語圏(漢文)から英語圏に移り変わっていく様を確認し、より広い視野を獲得できたことは大きな成果である。 また「『五族協和』の虚妄」と題した口頭発表では、石森延男という教育者、児童文学作家の活動を通じ、当時の子供たちが一定の思想、意識に向かってどのように誘導されていったかを指摘した。石森に関してはまとまった研究成果も見られるが、彼の特に「満洲国」時代の活動と、それが当時の児童に及ぼした精神的影響についてはさらなる考察の余地があると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題開始当初からおよそ三年間、コロナ禍により、自由な調査・研究活動に関して著しい影響を受けた。更に現在、日中、日米間の政治的緊張により、中国における調査・研究の自由が保障されない状況が続き、本研究課題申請当初に掲げた中国での調査・研究活動は相変わらず行えないままである。が、前年度の報告書に記した、日本国内の資料を使用し、日中間の文化交流の様を明治・大正期(即ち清末民初)に遡ることで「満洲国」に至る文化の様相とその変化を考察する、という目標に関しては、一定の成果を得られていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上に記したように、中国本土に於ける自由な調査・研究については、残念ながらしばらくは絶望的であろう。しかしながら本来やむを得ざる措置として行った研究の方向転換(日本国内の資料を使って本研究課題の基盤的問いを追求する)に関しては新たな視点を含めた一定の手応えを感じている。従って今年度は前年度に引き続き、国内の資料を使っての研究活動を更に推し進めていくこととする。 具体的には以下の活動を行う。 (1)清末民初の中国に関して、日本人の文化活動を通じて当時の日本人の中国観とその後の変化を知り、それが当時の日本の社会情勢とどのような影響関係にあったか、またそれが将来の「満洲国」建設にどのように関わっていったのかについて考察を深める。 (2)前年度の研究活動の中から、「満洲国」建設前後の中国東北地方に於ける日本人児童に対する文化活動、教育活動が「満洲国」、あるいはその後の第二次世界大戦につき進む国民の精神的支柱を構築するプロパガンダとして機能していたのではないか、という問題についても考察を進め、深めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響、及び中国国内に於ける自由な調査・研究がほぼ不可能な状況によって、学会などがオンラインを中心に行われるようになり、海外調査費等がほぼ使えない状況が現在も続いている。従って日本における調査にかかわる費目を主たる支出とし、またオンラインによる研究活動を潤滑にするための設備環境(PC、ウェブカメラ、マイクなど)を充実させる予定である。
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