研究実績の概要 |
宝巻文学の変遷史において、明末清初から清の嘉慶までのおよそ百年間に、現存する宝巻のテキストが乏しいことから、この時期を「沈衰期」とされてきた。「沈衰期」を挟む早期の宝巻を「古宝巻」、後期の質的な変化が見られる宝巻を「新宝巻」と呼ばれる。視点を変えれば、このおよそ百年間は宝巻の変遷史における重要な転換期と言ってもよいのである。本研究はこれまでの研究に続き、一連の考察によって、最終的には宝巻の変遷史において、いまだ明らかになっていない転換期の様相を解明することを目的とする。宝巻文学の変遷史における主要な問題――民間教派による物語宝巻の伝播、俗曲の流行り廃りによる宝巻スタイルの変化過程、信仰対象の変化による物語の変容にまつわる問題は、宗教教派期と宝巻の「沈衰期」とされる期間において、いまだ充分に解明するには至っていない問題である。本研究期間(2020ー2022年度)では、同時期の宝巻の変容過程をさらに綿密な考察を行うことによって、これらの問題をより明らかにすることを目指すものである。 2022年度では本課題研究の段階的成果として、宝巻にみる俗曲と江戸時代の日本に伝わる清楽の比較分析を行い、その流伝と変化の一側面を考察した。また口承文芸と宝巻の流布の関わりに着目して考察を行い、研究を進めた。主な成果として、論文「口承文芸としての宣巻と明末清初の宝巻」(『人文論集』 (61), 41-63, 2023年2月)国際学会「宝巻的俗曲和清楽」(北京大学中国古文献研究中心“中日漢籍研究与交流学術研討会” 、オンライン、2022年12月)を発表した。
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