研究課題/領域番号 |
20K00380
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
菅原 慶乃 関西大学, 文学部, 教授 (30411490)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 支那劇研究会 / 映画配給 / 日中合作映画 / 映画配給 / 幻灯 / 通俗教育 / 映画館プログラム |
研究実績の概要 |
外国での資料調査が実施できない状況が続いたため、昨年度にひきつづき近現代中国研究関連のオンライン上のデジタル・リソースを活用する形式で資料収集を行った。なお昨年、関連資料のデジタル・リソースのうち無料で利用可能なものをまとめてresearchmap上で「近現代中国研究に役立つデジタル・リソースガイド(新聞編/雑誌・書籍・その他編)」として公開したが、今年は若干のアップデートも行った。 調査対象資料に制約が生じたため、当初予定していた中国映画のグローバルな市場形成に関する研究の対象をやや修正し、日本における初期の外国映画配給体制の問題と中国映画界との関連に焦点を絞り、1920年代半ばの日本における最初の中国映画上映と上海・内山書店と「支那劇研究会」との密接な関係、日中初の合作映画『神州男児の意気』の製作状況について初めて明らかにした。その成果は中国の査読付き学術雑誌に掲載予定である。 他方、1900年代から10年代にかけて中国の教育界が日本における通俗教育の展開と連動しながら視覚メディアを用いた広汎な社会教育を実践していたこと、またそれに携わった少なくない人々が1920年代の中国国産映画産業に従事したことで、映画産業は単なる娯楽産業を越え広く社会教育にも資する「啓蒙の産業(李欧梵)」としての側面も持ち合わせていたことを明らかにし、国内外の招待講演で発表した。 映画の受容面で本研究が重視している映画館プログラム等の映画関連資料の活用方法については、デジタルアーカイブ学会第1回DAフォーラムにおいて発表した。他地域の映画観客研究の専門家との意見交換もオンラインを活用して進めることができた。22年3月には、本科研を含む3プロジェクト共催のシンポジウムを開催し、映画観客研究にとって不可欠な資料であると近年注目を浴びている映画館プログラムにかんするアーカイブ構築と研究動向について議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
外国への資料調査が実施できないうえに、コロナ禍の影響で物流に混乱が生じ外国からの書籍の入手もしばしば滞る状況が続くという資料収集の制約のため、当初予定していた中国における外国の映画理論の受容史、及び映画小説という文芸形態の研究については円滑にすすめることができなかった。この点については入手困難だった一次資料の翻刻の出版・公開がこの数年で急速に進んでいることが判明したため、公開状況を引き続き精査したうえで研究の可否を判断する。 同様に、中国映画の北米での伝播状況については北米の図書館等が所蔵する華語新聞を参照することができなかったため、研究の遂行に少なからぬ困難が生じた。 海外のジャーナルへ昨年度すでに投稿し査読も通過した論文が、コロナ禍等に起因する編集側の事情により公表できていない状況がある。
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今後の研究の推進方策 |
資料収集が制約される状況が継続されることを見越して、当初20世紀前半に焦点を当てていた本研究の視座を20世紀後半へ拡大し、20世紀全般を見渡す視座から政治宣伝メディアとしての中国映画の特性を解明する方向へ転換させる。特に、多様な形態の「映画説明」を、映画制作者と映画観客の間を媒介する重要なメディアとしてとらえ、その実像を明らかにする。さらに、映画説明を通じて経験される映画鑑賞体験や鑑賞空間が果たした重層的な意義を、メディア論や国民国家論等の観点からまとめる。 21年度までに予定であったが資料収集ができずに未着手、あるいは方向を転換した調査については、資料収集の状況を見極めながら遂行の可否を慎重に判断する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた海外での資料調査を実施できなかったため、次年度使用額が発生した。近年、海外の図書館所蔵の資料のデジタル版及び影印版の翻刻出版が増えているため、コロナ禍の状況によって短期の資料収集が困難な場合は購入できる資料を入手するために使用する。
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