研究実績の概要 |
本課題はマーク・トウェイン晩年期研究の一環であり、彼がユーモアのレトリックを<笑いの武器>として活用後、そのレトリックをさらにいかに駆使するかを探ろうとする。 今や自身も70歳を迎えたトウェインは, 1906年1月, 読者からの1通の手紙に触発され, 封印していた28年前のホイッティア70歳誕生祝賀スピーチ事件を振り返る。当時大きな衝撃をもたらしたその事件とは, エマソン, ロングフェロー, オリヴァー・W・ホームズといった高名な詩人の名を騙る, 3人の詐欺師を戯画化した彼のスピーチがアメリカ文学の権威を冒涜したと見做された出来事を指す。不明な部分がなお残るこの事件に改めて向き合い,彼は自ら吟味して、それを『マーク・トウェイン自伝』に記す。 その結果, スピーチ原稿そのものは「才気煥発, ユーモアたっぷり」の「申し分ない出来であり」, 「無作法あるいは粗野」には当たらず, そこに落ち度があるとは思えないことを確認する。つまり, 当時なおも君臨したボストン中心の東部文学世界に, 「揺さぶり」をかけた自身の西部的姿勢を是とする判断である。彼本来のこの立ち位置こそが, おのれの作家人生を振り返る『自伝』の批評精神と言えるだろう。ユーモアのレトリックを活かして生き抜く姿勢が読み取れるのである。 近年, 本事件の見直しが進められ, アメリカ文学・文化史の側面から, 彼のスピーチが何を示唆するのかを問う議論がなされている。 トウェインのユーモアを考察するためには、アメリカのユーモア、中世・ルネサンスの民衆文化、道化の歴史、諷刺等について学ぶ必要があることを自覚するに至り、Constance Rourke, Enid Welsford, William Willeford, ミハイル・バフチン、フランソワ・ラブレー等々の著作を読み、広い視野からマーク・トウェイン研究を進めるようになった。
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