研究課題/領域番号 |
20K00393
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研究機関 | 城西大学 |
研究代表者 |
伊東 裕起 城西大学, 語学教育センター, 助教 (70617448)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | W. B.イェイツ / アイルランド文学 / アングロ=アイリッシュ / ナショナル・アイデンティティ / 能楽 / 骨の夢 / ヤコブ・ベーメ / 国際学会 |
研究実績の概要 |
令和3年度は研究計画通り、イェイツが能楽を下地にして書いた戯曲『骨の夢』を中心に研究を行った。この戯曲では、アイルランド独立運動家の若者がディアミードとダヴォーギラの幽霊と出会う筋書きだが、その幽霊がなぜ呼び出されたのか、草稿を中心にそのトリガーを分析した。 第1草稿では1789年蜂起の際に若者が抵抗歌を歌う場面で幽霊が登場していた。抵抗歌は擬人化されたアイルランドの女神とフランスからの援軍を歌う愛国的なものである。しかし、フランスからの援軍を歌うことは、ノルマン人を招いたディアミードとダヴォーギラの行為と皮肉な二重写しとなる。 第2草稿以降、舞台は1916年復活祭蜂起となり、幽霊を呼び出すトリガーは若者の祈りとなる。決定稿ではアイルランド語の祈りとなるが、第2稿は「アイルランド語もしくはラテン語」となっていた。どんな祈りが唱えられたかは特定されていないが、しかし、ラテン語もあるものである可能性があるのなら、「主の祈り」や「天使祝詞」などのキリスト教の成文祈祷であると推測できる。それは自らの罪の自覚に基づく祈りであるべきものである。一方、この若者は裏切りが許せない人物として人物造形されているが、武装蜂起の場から逃げてきたという裏切りを犯している人物である。共に裏切り者である共通点と、その祈りが二人の幽霊を呼び出したと考えられるのである。 この研究成果は学会で発表したが、論文化は次年度に回すこととした。その代わりにかつて収集した資料に基づき、ヤコブ・ベーメ思想のイェイツへの影響について論文化した。イェイツがニーチェ思想を受容するにあたって、ウィリアム・ブレイクとニーチェをつなぐ補助線としてヤコブ・ベーメの思想を土台としたことを分析し、論じた。 またオンラインでの参加ではあったが、アイルランドのスライゴ―で開催されるイェイツ国際サマースクールに参加することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
長引くコロナ禍と校務などで時間を取られ、思うように研究を進めることができなかった。それでも当初の予定通り『骨の夢』について分析し、学会発表をすることができたが、論文投稿を次年度に回すことになった。代わりに過去収集した資料の分析を行い、論文化することができた。またオンラインでの参加ではあったが、アイルランドのスライゴ―で開催されるイェイツ国際サマースクールに参加することができたのは大きな収穫である。
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今後の研究の推進方策 |
予定では、3年目は『煉獄』を扱う予定であったが、過去収集した資料の再読による知見を深めること、および論文の書籍化を視野に動いていきたい。ヨネ・ノグチとの関わりについては、ヨネの『広重』についてイェイツが手紙に書き送ったことについて分析を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定の国際学会・国内学会が、ともにオンラインでの参加となったため。また海外からの洋書の到着遅れにより、書籍購入の決済が次年度に繰越になってしまったため。当該繰越分の予算は速やかに図書購入費用に充てられる予定である。
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