研究課題/領域番号 |
20K00395
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
奥田 暁代 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (40296736)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アフリカ系アメリカ文学 / 世紀転換期アメリカ文学 |
研究実績の概要 |
本研究は、ハーレム・ルネサンス前期(Pre-Harlem Renaissance)のアフリカ系アメリカ人作家をあらためてアメリカ文学史上に位置づけることによって、この時代の小説・詩・演劇の再考を試みるものである。具体的には、まず、アフリカ系アメリカ文学の流れ、とくに南北戦争前後のアンテベラム期からポストベラム期への継続性、そして世紀転換期からハーレム・ルネサンス期への連続性、を明らかにし、そのうえで、広くアメリカ文化のなかにこれらアフリカ系アメリカ人作家を位置づけ、これまで語られることが少なかった、人種を越えた関りの実態を示すことを目指している。 2018年度に国際学会で行った口頭発表では、詩人で雑誌編集者でもあったジェイムズ・E・マッガートの作品や出版活動について文化史的な視点から読み解くことを試み、南部という「排他的」かつ「閉鎖的」と語られてきた地域に拠点を置くアフリカ系アメリカ人作家の可動性と多様性を明らかにした。この研究報告をもとに執筆した論文が海外の学術誌に採択され、2022年度中に掲載される。2019年度には、黒人紙の人気コラムニストで小説家でもあったジョン・E・ブルースを中心に据え、世紀転換期のアフリカ系アメリカ人作家たちの広汎なネットワークと作品の考察を進め、その成果を国際学会で発表した。この報告をもとに、ブルースからさらに劇作の共著者であるヘンリエッタ・デイヴィスにも対象を広げ、文化的に不毛とされてきた時代のアフリカ系アメリカ人の活動を、音楽や歴史、演劇まで多岐にわたるものとして明らかにし、その論考は『ハーレム・ルネサンス』(2021年刊行)に収録された。さらに、2021年開催の国際学会において、詩人・小説家のアリス・ダンバー=ネルソンの半世紀にわたる創作活動を、世紀転換期に多くの女性が参加した文芸クラブと、白人出版代理人との関係に着目し報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度はコロナ禍にあったため、予定していた資料収集など渡航を伴う活動が行えなかった。しかし、ハイブリッド開催となった国際学会(American Studies Association、10月)での口頭発表は、オンラインで行うことができた。2021年度前半はこのアリス・ダンバー=ネルソンと作家のネットワークに関する発表(“Managed Creativity: Alice Dunbar-Nelson’s Navigation of the Publishing World’s Racial and Gender Politics”)の準備に時間を費やした。後半には、ジェームズ・E・マッガートの詩、演劇、音楽に着目し、アフリカ系アメリカ文化創出を意識しつつ、白人読者・白人聴衆に発信を続け、南部のイメージ修正を図ったことを明らかにした論文(“James E. McGirt’s Periodical, Poetry and Performance: Bringing the Southern Landscape to Popular Audiences in the Pre-Harlem Renaissance Period”)の修正と再投稿に集中した。その結果、学術誌Mississippi Quarterlyに掲載されることが決まっている。その後、アメリカ歴史家協会(Organization of American Historians、2022年4月)の年次大会に採択された、ポーリーン・E・ホプキンズが世紀転換期の雑誌に連載した小説に着目し、アフリカ系アメリカ人とネイティヴ・アメリカンとの関係性、その文化的交錯を考察する研究報告の準備を行った。 以上、海外渡航は叶わなかったものの、研究を続け、成果発表に繋げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度中に海外の学術誌に論文掲載が決定したことを受けて、2022年度もこれまでの研究報告を論文として発表することを目指していく。これまでの資料収集の蓄積を最大限に活用しながら、①2021年度にアメリカ学会(American Studies Association)年次大会で報告したアリス・ダンバー=ネルソンと作家のネットワークについて、②アメリカ歴史家協会(Organization of American Historians)の年次大会(2022年3月31日~4月3日)でのポーリーン・E・ホプキンズとネイティヴ・アメリカン表象について、これら2つの報告を論文として執筆する。 国際学会に参加し、海外の研究者と交流、意見交換することは研究成果をあげるために不可欠であるため、2023年度の学会報告を目指してプロポーザル提出も検討する。とくに、ヘンリエッタ・デイヴィスについては、アメリカにおいてもあまり研究がなされてきておらず、デイヴィスなどの朗読家・悲劇女優の活躍を追うことで、世紀転換期の演劇・音楽の位置づけを明らかにすることができれば、重要な業績となるだろう。 これらの研究は英語での報告・執筆を行ってきているが、かねてから目指している、この時代の特徴を整理して一つの形にし、「ハーレム・ルネサンス前期の文学」として研究書にまとめることにも着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 2021年度には2度の渡航を計画していたが、まず、10月7日から10日にかけてサンファン(プエルトリコ)で開催予定の国際学会年次大会はハイブリッド開催となり、同じパネルのヴァージニア大学のグレイス・ヘイル教授、メアリー・ワシントン大学のクリスティン・ムーン教授、ジョージア大学のグレン・エスキュー教授らと相談の上、オンライン参加となった。また、2022年3月31日から4月3日にかけてボストン(アメリカ)で開催されたアメリカ歴史家協会(Organization of American Historians)の年次大会についても、オンラインでの口頭発表となった。その結果、3月に渡航することもなくなり、予定していた外国旅費を使用せず、英文校正などの謝金を使用するのみとなった。 (使用計画) 2022年度は、この2年間コロナ禍のため行うことができていなかった資料収集を再開する。とくに、予定していたアメリカ議会図書館(ワシントンDC)での資料収集を実行する。渡航が奨励されないなど実現しないことも視野に入れ、単行本の出版とそれにかかる費用についての検討も始める。
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