研究課題/領域番号 |
20K00396
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
竹内 美佳子 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 教授 (00227000)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自伝文学 / ディアスポラ / ポスト・コロニアリズム |
研究実績の概要 |
現代アフリカ系アメリカ文学の開拓者であるリチャード・ライト(Richard Wright, 1908-60)のレジスタンス思想を、第一長編小説、自伝、紀行文学という3つの角度から研究した。第一長編小説『アメリカの息子』(1940年)は、マルキシズムと自然主義の伝統に根差すライトの出発点とされる。本研究では、この犯罪小説が、社会的価値観をアメリカ自然主義文学と共有しつつも、人物造形に著しい特異性をもつことを解読した。心理描写の分析を通して、後のライトとアメリカ共産党との対立要因にも理解を深めた。 第二に、『ブラック・ボーイ』(1945年)と遺作『アメリカの飢餓』(1977年)から成る連作自伝が、社会批判に駆使するナラティヴの技法を分析した。アメリカの南部農本主義社会が人種分離を敷き、北部産業社会が独占資本主義を形成する20世紀前葉、ライトは身を以て体験した南北双方の社会問題を、文学に訴えた先駆者である。ライトの批判が深南部から北部大都市へ拡大する思考の道筋を、自伝と最新の評伝に検証した。 第三に、ライトが冷戦時代にフランスで著した紀行文学と講演録を、脱植民地主義の見地から研究した。ライトは、アフリカ系アメリカ人としての非/反西洋的体験に基づく対抗言説を西洋内部から発信し、アフリカ系の民族離散(ディアスポラ)に対する抵抗思想を触発した。ライトの初期小説から後期ノンフィクションに至る社会意識の深化について、進行中の研究と合わせて発表する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ライトの作品研究を進めるとともに、自伝の背景をなす事実に着目して作家研究を行うことにより、創造力の源泉を探った。ライトの作品は1940年代末から「抗議文学」と称されてきたが、本研究ではこの通説を問い直した。19世紀の南北戦争と20世紀の脱植民地化闘争とを繋ぐ時間軸のもと、ライトの抗議精神に新たな知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
ライトの影響下に文学を志したアフリカ系アメリカ人作家ラルフ・エリスンを研究する。エリスンは実験的小説で現代文学に新境地を開くと同時に、一千頁を超える評論を著した。研究ではエリスンの批評家としての特質を、社会論と芸術論の各領域に検証する。さらに、多人種社会アメリカの実相と対峙し続けた小説家としての葛藤を、後期作品と遺稿に解読する。
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