研究実績の概要 |
最終年度は、20世紀アフリカ系アメリカ人作家ラルフ・エリスン(Ralph Ellison,1914-94)の遺作を研究した。ジョン・F・キャラハンの編集による『ジューンティーンス』(Juneteenth)が1999年にランダムハウス社から、さらにキャラハンとアダム・ブラッドレイの編纂による『銃撃前の3日間』(Three Days Before the Shooting)が2010年にモダン・ライブラリー社から出版された。この2冊によって遺稿の全容が明らかになった。エリスンは1950年代半ばの着手以来、主要部分の抜粋8編を文芸誌に掲載しながら執筆を進めた。第1抜粋は公民権運動期の1960年に「ヒックマン来たる」(“And Hickman Arrives”)と題して公開し、その後も死去前年まで推敲を重ねた。アメリカ社会と対峙する苦闘が文体の推移に読み取れる。奴隷解放100年を画する1965年には、主人公ヒックマン牧師の説教を「ジューンティーンス」(“Juneteenth”)と題して抜粋発表し、アフリカ系アメリカ人の祝祭を世に知らしめた。ジューンティーンスとは、南北戦争終結2か月後に、連邦軍の将官がテキサス州ガルヴェストンに上陸して奴隷解放を宣した6月19日に由来する。小説と並んで注目すべきは、警官によるアフリカ系アメリカ人ジョージ・フロイド氏の圧殺を重大視したバイデン大統領が、翌2021年に、6月19日を連邦祝日とする「ジューンティーンス独立記念日法案」に署名したことである。奴隷解放の祝祭を理解する上で、エリスンの遺作は大きな意味をもつ。研究では、分断した人種社会の未来を「歴史の語り直し」に託すエリスンの創造意図を解読した。近現代アメリカ文学のレジスタンスについて、研究成果を統合して発表する。
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