研究課題/領域番号 |
20K00399
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
小林 酉子 東京理科大学, 教養教育研究院野田キャンパス教養部, 教授 (60277283)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 英国スチュアート朝演劇 / 舞台衣装 / 商業劇団 / 国王一座 |
研究実績の概要 |
本研究は、英国スチュアート朝時代 (1603-1649)の商業劇団が、宮廷・民間各々の演劇舞台でどのような劇をどのような演出で上演していたか、及び、そのような劇団の活動が、清教徒革命までの社会変化にどのように係わっていたかを明らかにしようとするものであり、令和3年度には以下についての研究発表を行なった。 スチュアート朝では王室メンバーがそれぞれに商業劇団のパトロンとなったため、劇団と宮廷の関係はエリザベス時代に比べて、より密になり、宮廷での公演回数も増加した。市井の劇場での活動も活発化し、商業劇団は財政面でも興隆期を迎えた。このことは次の事例から検証できる。 1605年、ジェイムズ王のオクスフォード巡幸時には、大学主催の御前公演衣装がロンドンの少年劇団から借り出された。これは劇団所有の衣装が質・量共に豊かであったことを物語る。また1624年、スペイン大使役の俳優が、大使本人の不要衣服を着用して演じたの事例からは、劇団が宮廷との密な関係を利用してこの衣服を入手したことがわかる。1634年には、演劇好きで知られるチャールズ王王妃が、自身と貴族女性が着用した舞台衣装を商業劇団へ下げ渡し、俳優たちがこの衣装で演じた例も見られた。 次代のチャールズ王宮廷では、王権神授説のテーマや牧歌的田園を描いたパストラルのテーマなど、現実から遊離した内容の劇が演じられたのに対し、民間劇場では貴族社会の腐敗や王政批判を描く戯曲の上演が増え、宮廷・民間の演劇舞台でテーマの解離が進んでいった。1640年に商業劇場で上演された『宮廷乞食』は、国王の施策の中でも特に悪評高かった専売特許権を可視化する衣装を用い、1642年の内戦を誘発したといわれる。劇団は宮廷・民間の双方を行き来しながら、その分断に寄与していたともいえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に続いて令和3年もコロナウィルス感染が終息しない中、海外・国内での資料収集、実地調査を行うことができなかった。学会や研究会も中止やオンライン実施になるなどの変更が相次ぎ、研究成果発表の機会が失われた。 本研究は、英国スチュアート朝時代の商業劇団の活動、舞台衣装と演出の実相の解明に取り組むものであり、英国内での調査、資料収集は欠かせない。しかし英国、特にロンドンでのウィルス感染者数の増加により、仮に渡航しても待機期間を設けなければならない状況が続いたため、現地での調査・研究を断念せざるを得なかった。 上記の理由により、令和3年度の研究計画は当初予定通りには進まなかった。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は主に民間演劇舞台について、以下の2点を中心に研究を行う予定である。16世紀後半からロンドン市内には室内劇場と屋外劇場、二つのタイプの劇場が存在したが、スチュアート朝期、時代が進むにつれて両者の間で、芝居のテーマや演出の隔たりが拡大していった。 1. 室内劇場では、貴族社会の腐敗や退廃の現実を舞台に投影した『白魔』(1608)や『モルフィ公爵夫人』(1614)がヒット作となった。陰謀や毒殺、密通事件等を扱い、特に観客を集めたウェブスター作品をはじめ、ジョンソン、フレッチャー,チャップマン、ミドルトン、マーストン等、人気を呼んだ芝居のテーマを経年的にたどり、現実に起こった事件と照らし合わせながら時代の様相を検証する。 2. エリザベス女王時代から庶民の観客が多かった屋外劇場は、スチュアート朝では次第に衰退した。劇団活動の比重が、より収益の上がる室内劇場にシフトしたことが大きな理由であるが、屋外劇場での上演劇の変化を追うことにより、劇団活動の実態を明らかにする。 コロナウィルス感染は令和4年も終息しない様相であるが、海外での調査・資料収集を実施したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年は前年度に続いてコロナウィルス感染拡大の影響で、国内・国外とも学会は中止またはオンラインとなった。このため、オンライン学会参加費を除いて、旅費の支出がほとんどなかった。解析度の高いコンピュータを購入し、データ分析と論文執筆に重点を置いて研究を進めたが、調査・資料収集に関しては、国内で短期間に実施したのみで、海外では実施できていない。これらの理由により、次年度使用額が生じることとなった。 令和4年度もコロナウィルス感染の完全な終息は見込めないと思われるが、状況に応じて海外での調査・資料収集、学会参加を行う計画である。学会が対面式で開催されるのであれば、他研究者との情報交換も行えるため、現地で参加したい。
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