研究課題/領域番号 |
20K00400
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
岡島 慶 日本大学, 経済学部, 准教授 (10710569)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | Afrofuturism / Black community / Survival |
研究実績の概要 |
令和4年度は、一昨年度からの研究課題を深めていきつつ、Afrofuturism及びOctavia Butlerについて新たな知見を得ることができた。まず、Afrofuturismについてであるが、書評を担当したイターシャ・ウォマック著の『アフロフューチャリズムーブラック・カルチャーと未来の想像力』から、Afrofuturismという現象が芸術運動にとどまることなく、ブラック・コミュニティの社会的な営みとして、共同体の形成やサバイバル戦術に深く関わっている点を学ぶことができた。 このことは、しばしば芸術運動としての側面のみが強調されがちなAfrofuturismの概念を大幅に拡張する考え方であり、今後の小説分析、とりわけOctavia Butlerの小説の解釈に新たな示唆を与えてくれるものであると考える。例えば、Butlerの代表作『Parable』シリーズの2作品では、一昨年度の研究課題から明らかになったButlerの「出産」や「Black essentialism」への関心が、共同体の構築という作業に収斂していくように描かれている。第一作目の『Parable of the Sower』では、政治的腐敗や伝染病の流行などで荒廃した近未来のロスアンジェルスで家族や家を失ったLauren Olaminaが、彼女独自の信仰体系を通じて新たな家族や共同体再建を試みる姿が描かれる。 この両作品ばかりでなく、遺作となった『Fledgling』でも、Butlerは一貫して黒人(の女性)が共同体の創始者となることや出産(と母子関係)に生じる問題点について思考しているように思われる。 令和4年度は、以上の点が明らかになったので、今年度は先行研究などの文献を読み込みを進め、特に『Parable』シリーズに描かれるAfrofuturismから派生する黒人コミュニティの問題系について論考を深めていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
予定していたアメリカでの研究調査がいまだに実行できていないため、研究計画通りに進めることが困難となっている。また、研究を進めていく中で、一人の作家への関心が深まっていて、次の作家への研究の展開が滞っている。さらに、昨年度から引き続き、所属先で全学的な委員会に所属し、従前の研究エフォートを十分に確保することができなかったため。
|
今後の研究の推進方策 |
アメリカへの研究調査の実施がいまだ不透明であるが、遠隔(オンライン)での調査ではなく、やはり現地でのアーカイブリサーチを実現させたい。研究計画上、最初に取り扱った作家Octavia Butlerへの関心が高まっているため、Butlerの研究を中心に据え、次に行う計画であったNnedhi Okorafor研究を比較文学的に行ってみたいと考えている。また、現在米国のスミソニアン博物館にてAfrofuturismの展示が行われているため、この展示へのフィールドワークも研究計画に組み込みたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大による渡航自粛のため、予定していたアメリカでの研究調査がいまだ実行できておらず、その予算を繰り越すとともに、現在ワシントンのスミソニアン博物館で開催されているAfrofuturismの特別展示へのフィールドトリップも研究計画に組み込みたいと考えている。一時は遠隔でのアーカイブリサーチも考慮に入れていたが、やはり現地での調査が必要であり、アメリカでの研究調査は実現させたい。また、出張を予定していた国内学会が遠隔での開催となり、旅費を使用しなかったためこの分を次年度に回したい。さらに、現在執筆中の英語論文を加筆修正していくことになるため、英文校正の費用にも使用する。
|